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あの日の修斗の思うこと

俺が襲われたあの日、康介君が物凄い心配をしてくれた── 保健室で目が覚めて俺のことを覗き込んでる康介君を見ても、最初は自分に起きた事がわからなかった。 何で俺に抱きついて康介君が泣いているのか…… でもすぐに思い出した。襲われて気を失った事を、そして油断してしまった事を後悔した。 自分のことはどうだっていいんだ。こうやって俺のせいで涙まで流して震えている康介君を見て申し訳ない気持ちでいっぱいになった。だって康介君は何も悪くないのに、「俺のせいで」と言ってひたすら謝ってくる。 謝るのは俺の方だ…… 康介君に対しての嫉妬心から酷い事を言って傷付けてしまった。 物凄い心配をかけてしまった。 そういったこと全て引っくるめて、俺は康介君に謝った。 いつもすぐに恥ずかしがったりはぐらかしたりする康介君なのに、よっぽどだったのか俺に抱きついたまま離れない。俺的には何も問題はないんだけど、きっと無意識なんだろうな。ひたすら俺に謝りながら抱きついている康介君が可愛く思えた。 「いつまで抱きついてるの?」 そう聞いてみたら案の定、真っ赤な顔をして慌てて俺から離れてしまう。でもその瞬間凄く寂しく感じてしまって「もっとギュッとして……」と頼んだら、揶揄ってると言って怒ってしまった。 そうなんだ…… 康介君は俺がいくら本心を言っても揶揄われていると思って本気にしてくれない。いつもそう。恥ずかしいんだろうな、とは察しがつくけど、いつもこんなだからちょっと辛い。 俺は強引に康介君を胸に抱き寄せ甘えてみた。こんな時くらい、俺のことをちゃんと見てほしい。俺だっていつもいつも揶揄っているわけじゃないんだ。 帰りも心配なのかずっと俺について来てくれる。俺のそばから離れようとしない。 どんだけ心配なんだよ…… でも、一生懸命なのがとても嬉しかった。 俺の家は今は誰もいない。このまま一人は寂しい……いや、少し心細いと言った方がしっくりくる。やっと仲直りができた康介君とももっと一緒にいたいと思ってしまった。 今日のお礼に、と弁当を奢った。 コンビニで二人で買い物。周と同じで弁当を二つも食べようとするから笑ってしまった。 家に着くなり、康介君には悪いけど部屋で待っててもらいシャワーを浴びた。色んな奴に体を触られて気持ちが悪かった。きっと腹だって減ってんのに、待たせてごめんな。 シャワーを浴びながら先程のことを思い返す。俺はあの時気絶してしまったからわからないけど、あんな醜態を康介君に見られていたんだろうか? 薬のせいだとはいえ俺のあんな姿を……そう思ったら恥ずかしくて消えたくなった。 部屋に戻って弁当を食べ始めるも、食欲がない。俺は焼きそばを箸で突くも口に運ぶ気になれず、ぼんやりとしてしまった。 目の前には心配そうに俺を伺い見る康介君。 「修斗さん、大丈夫? 腹減ってないなら無理して食べることねえっすよ……」 「………… 」 心配されるのはあまり慣れてない。それにやっぱり大丈夫じゃない。 自由のきかない体を意に反して弄られまくって、感じたくないのに意識が飛ぶほど感じてしまって…… そんな姿を康介君に見られてたかもしれない。 軽蔑されたかな…… 誰にでも体を開くと思われたかな。俺、そんなんじゃないのにな…… 考えれば考えるほど甘えたくなってきて、そんな自分にちょっと戸惑う。でも、抱きしめてほしい。そんな気分になってしまうのは変なこと? 言ってしまったら引かれるかな? 「……康介君、そっち行っていい?」 恐る恐る聞いてから、俺は康介君の隣に座った。 柔軟剤と少しの汗の匂い……康介君の匂い。 やっぱり落ち着くし安心できた。 俺は堪らず康介君の胸に抱きついてしまった。ちょっとビクッとして、どうしたのか聞いてくる康介君に「ギュッとして」なんて言ってみる。我ながら何やってんだかと呆れてしまう。でもさ、やっぱり康介君は揶揄うな! と言って怒ってしまった。 毎回毎回、そう言って俺を避ける康介君、正直結構傷つくんだよ? 俺が情けないところを見られたと言って落ち込んでたら、元気を出してくださいと言って背中を優しく撫でながら慰めてくれる。 優しいんだよなあ。 普通はさ、こんな風に愛おしそうに撫でないんだよ…… 「康介君、俺の事大好きなんだな」 こう言ってみると、やっぱり赤い顔して怒る康介君。 でも本当に康介君、俺の事好き……なんだよな? わかりやすい態度だけど、でもお互い男だし……100パーセント自信があるわけじゃないけど、でも康介君が俺に対して好意を持っていることくらいちゃんとわかるよ。 男に好意を寄せられてる俺も、嫌じゃなかった。寧ろ嬉しいと思ってる。 康介君はしばらく俺のことをギュッとしてくれていたけど、突然首筋にキスをしてきた。 驚いた。でもキスというより、キスマークを付けている感じ…… 康介君は夢中で俺に吸い付いてくる。なんで急に? と思ったけど、そうだった。俺には色んな奴に付けられてしまった痕がいっぱいあった。きっとそれを見てこうなったんだ…… 上書き? はは……こないだの周みたいだ。竜太君に「上書き」だと言って夢中でキスマークをつけていた周を思い出す。そうだ、これと全く同じことだ…… 康介君はきっと無意識。あまりにも夢中だからとりあえず名前を呼んでやめてもらった。 我に返った康介君があまりにも狼狽してるもんだから、俺は全然気にしてないよ、と伝えたくて笑ってやった。 「康介君、脅かさないでよ。もう、びっくりしたなぁ」 それでも康介君は青い顔をして、弁当の礼だけ言うとバタバタと部屋から出て行ってしまった。 ……なんだよ。 俺だって、ドキドキしてんだからな。

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