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ドーナツ甘い?…しょっぱい
俺は修斗さんもそこにいる女の子も無視して帰る事にした。そうだよ……初めから修斗さんとデートなんておかしな事に付き合わなきゃよかったんだ。
スタスタとその場から離れ歩き始めると、後ろから修斗さんがこう言うのが聞こえてくる。
「でもね、俺達デート中だから遊べないんだ。ごめんね」
なんだよ……そういうのはすぐに言えよ! 何して遊ぶの? なんて聞く必要ねえだろ。断るなら初めからさっさと断れよ。
気分を害してその場から逃げ出した俺、かっこ悪…… 拗ねて不機嫌になってんのバレバレじゃん。
後ろから修斗さんが呼んでいる。
「おーい、康介君待ってよ。どしたん?」
恥ずかしくって振り返れずに無視してしまう。
そもそもさ、俺修斗さんにキスマーク付けて気まずかったんじゃなかったっけ? 修斗さんはいつもと変わらず接してくれてるけどさ……実は本当はちょっと気持ち悪いとか思われてんじゃねえの?
だから俺の事からかって遊んでるんだよ きっと……
なんかだんだん悲しくなってきた。
いつの間にか俺の背後に修斗さんが追いついていて、俺の服の裾を握ってついてきている。
何それ、可愛い…… でもどうしたらいいのかわからない。
「ねぇねえ、どうしたの? 康介君怒ってるの?」
修斗さんの甘い声。てか、甘い匂いが鼻を擽る……
「あー! 見て! ドーナツだよ、 康介君あれ食べよう! 一緒に食べようよ。お昼は俺、ドーナツでいい! 」
俺の服の裾を掴んだまま、ブンブン振りながら修斗さんがはしゃぎ始めた。
あーー! もうっ!
「……もう帰りますって! 修斗さんは他の人と遊べばいいじゃないですか! ……ドーナツもいりませんってば!」
俺がそう言うと「えーー?」と大きな声を上げて修斗さんが俺の前にまわりこみ顔を覗いた。
「俺は今日は康介君とデートしてるんだよ? 他の人となんて遊ばないし、遊びたくない」
真面目な顔。何で急にそんな顔するんだよ。ちょっとドキッとしちゃったじゃないか。
「いいじゃん、何でそんなに俺のこと避けるの? 好きなくせに 」
「………… 」
さっきの真面目な顔からあっという間にいつもの悪戯っぽい表情に変わり、チャラい修斗さんに戻ってしまった。
「ほらほら、ね? ドーナツ食べようよ。康介君ドーナツも好きでしょ?」
「はいはいわかりました……ドーナツ買いましょ。食べりゃいいんでしょ」
俺達はドーナツを買い、すぐ近くのテーブルでドーナツを食べる。
やっぱりここんとこ……胸のあたりがモヤモヤする。
「康介君、なんで怒ってるの? あの女の子達と遊びたかった? あれ? それともヤキモチ?」
ドーナツをモグモグ食べながら俺を見る修斗さん。あの状況で俺が女の子と遊びたかったわけねえだろ。修斗さんはわかっててわざと聞いてるんだとわかるから、ちょっとイラっとしてしまった。
「……だから! 何で俺に構うんですか? 俺……あ、あんなことした……のに。嫌じゃないんですか?」
一番気になっていた事を聞いてしまった。一人でうじうじ考えてたってしょうがない。修斗さんが何を思って俺に構ってくるのか、あの時の俺のこと、嫌じゃなかったのか……聞くのが怖かったけど腹を括った。でも「気持ちが悪かった」とか言われてしまったらどうしよう。
「え? なんのこと? 俺は康介君大好きだよ? 何も問題ないでしょ 」
俺は真剣に聞いているのに、この人はそう言ってケラケラと笑い飛ばした。
どこまでが本気でどこからがふざけているんだかわからない……
俯いたまま、鼻の奥がツンとする。
なんだよ……こんなことでなに泣きそうになってんだよ俺。
テーブルに身を乗り出した修斗さんが俺の顔を覗き込んでくる。
「そんな事今まで気にしてたの? 大丈夫だよ……俺、康介君の事好きだよ? それは変わらないからさ、もうその話はおしまい」
修斗さんはそう言ってまた笑った。
甘いはずのドーナツが、我慢していた涙のせいでちょっとだけしょっぱく感じた──
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