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凪沙という女
なんとか凪沙から逃れ、人混みを歩き始める。
少しして康介君と手を繋いだままなのに気付いたけど、康介君も気が付いていなそうだったから何となくそのままでいた。
「あっ! スミマセン!」
すぐに慌てて康介君が手を離す。……なんでいちいち謝るんだろうね。ちっとも嫌じゃないのにな。
「……修斗さん、なんで急に逃げるように走ったんですか?」
康介君が不思議そうに聞いてきた。確かにそうだよな、あんな風に走りされば気にもなるわ……
あんまり言いたくないんだけど、黙っているわけにもいかないのでしょうがないから説明をすることにした。
「どっかでお茶でもすっか……」
俺らはゆっくりと話をするために近くのコーヒー店に入った。
窓に向かった席に並んで座り、道行く人混みを眺めながらコーヒーを飲む。
「さっきさ、竜太君追いかけてきた周と一緒に女がいたのわかった?」
気づかなかったと康介君は首を傾げる。
「そいつさ、凪沙っていって中学の時の同級生なんだよ。凪沙はさ、自分の欲しいものを手に入れるには手段を選ばないような奴で……まぁ、関わるとロクなことがない相手だな」
俺の話を真面目な顔をして聞いている。
「………… 」
凪沙の事を思い出していたら嫌なことまで記憶が蘇ってきた。ほんの一瞬言葉を詰まらせてしまったらすかさず康介君に指摘されてしまった。
「修斗さん? ……もしかしてその人と何かあったんですか?」
「………… 」
周と付き合うと聞いてからすぐに俺にモーションかけてきた凪沙。ムカついて断ったら、凪沙の兄貴たちに俺は拉致られてしまった。周に助けてもらうまで、俺は凪沙にもその兄貴達にもいいように嬲られた……
つい最近、俺は小峰にあんな目にあわされてんだ。流石にまた心配されちまうと思ったからそのことは言わなかった。いや、……言えるわけねえよな、そんなこと。
「ん、何かあったってわけじゃねえけど……でもよかった。康介君をあいつに見られなくて」
きょとんとした顔で俺を見る康介君。
「なんで?」
なんでじゃねえよ!
「いや、だって康介君イケメンだからさ、凪沙なんかに見られてたら絶対狙われるって。俺そんなの絶対嫌だもん」
康介君は俺の言葉に「イケメンじゃないし相手は女の子でしょうが」と言って笑った。
いやいや……凪沙はそこらの女子とは違うんだよ。でもまぁ、凪沙も康介君のことは認識してないだろうし、心配する事はないか。
「これからどうする? カラオケでも行くか! カラオケ行って、飯食って、ちょっと飲んで帰ろ」
康介君は「はいはい……」と、なんだか面倒くさそうに返事をする。
「勿論飯は奢るから! そんな嫌な顔しないでくれる? 俺といるのそんなに嫌?」
わざと拗ねたようにそう言うと、慌てた顔で康介君は謝り「嫌な顔なんてしてない!」と言って否定した。
今日はさ、康介君には内緒だけど……ちょっとサプライズがあるんだ。
うん
だからもう少しだけ俺に付き合ってね。
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