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デートくらい…

「僕ね、もうじき転校するんだ。だから康介君ともお別れ……」 小峰が寂しそうな顔をしてそう伝えてきた。ああそれで元気がないんだな。小峰に告白をされたのもあるから俺は小峰の気持ちがわかり一緒に寂しく思ってしまった。 「……そっか。なんでまた急に?」 俯いたままの小峰が話すのを俺は黙って聞く。 「親の仕事の関係で海外に行かなきゃいけないの。一人暮らしも考えたんだけどさ、親にダメだって言われて……」 「それじゃ、しょうがねえな」 そう言うと、俺の事をジッと見つめ小峰が言った。 「あのさ……康介君にお願いがあるんだけど」 泣きそうな顔に見える小峰にちょっと同情してしまう。親の都合でいきなり転校とかいってさ、しかも海外だなんて俺だったら不安しかない。それに好きな人と離れてしまうのは正直嫌だ。付き合っている相手じゃなくても、たとえそれが片思いの相手だったとしても、そんなに離れてしまったらもうこれっきりだと思ってしまう。もし修斗さんと離れ離れになってしまったら……と考えたら俺だったらきっと泣いている。 「僕と一日でいいからデートして下さい! ……えっと思い出に。あの、思い残しのないように……って」 思い残しって…… 「思い残しって、オーバーな……いいよ、別に。いつ? 今日?」 俺の返事を聞いた小峰の顔がパッと明るくなった。小峰の気持ちはよくわかるよ。俺は小峰の気持ちには答えてやることはできないけど、デートくらいならなんてことはない。そんなことでも小峰が元気になれば俺は嬉しかった。 「今からでもいい? 学校サボることになるけど……」 遠慮がちに小峰が言うけど、勿論大丈夫。 俺たちは先生に見つからないようにこっそりと学校を抜け出し「ちょっとワクワクするな」と小峰と笑い合った。 「どこ行く? 行きたいところとかある?」 「映画観たい!」 「オケ!」 土曜日観た映画…… 結局寝ちゃって観られなかったけど、今度はちゃんと観られるな。 あ! やべっ! 思い出した、俺今とっても金欠…… 「ごめん! 俺今あまり金持ってねえや」 そう、土曜日の修斗さんとのデートで結構お小遣いを使ってしまった。結構どころか使い切ってしまったと言っていい…… 「やだな、そんなの気にしないで、僕の奢りに決まってるでしょ」 ……なんか悪いな。でも無いものはしょうがないか。 「悪い。ありがとな!」 俺は小峰の言葉に甘えることにした。 映画が始まると、俺の耳元で小峰が囁く。 「……康介君、手……握ってていい?」 ……手? どうなんだ? 「ん……いいよ」 ちょっと考えたけど、いいよと答えてしまった。肘掛けに置いた俺の手に自分の手を重ねる小峰。所謂「恋人繋ぎ」みたいに指を絡ませながら映画を鑑賞した。 「………… 」 これさ、きっと修斗さんとしたら俺ドキドキして手汗が凄えんだろうな。 映画は思ってた通り凄く面白かった。だから本当にあの時寝てしまった自分に腹が立った。ちゃんとあの時に修斗さんと観られたら、終わってからも一緒に感想を言い合えて楽しかっただろうに…… ……クッソ! 俺のバカ! なんだか修斗さんとのデートを思い出し、悔しい気持ちになりながら俺は映画館を出た。 「映画面白かったね。えっと、ありがとう。手繋いでくれて……」 小峰が少し恥ずかしそうにお礼を言った。そんなお礼を言われるような事してないし、たかだか手を繋いだくらいで。でも好きな人となら嬉しいか。そうだよな。 「いちいちお礼なんていらねえし。映画、面白かったな!」 次はどうする? と聞くと、今度は公園に行くと嬉しそうに言った。 ちょっと待て? ……このチョイスってさ。土曜日のデートと同じ、だよな? たまたま? 凄えな。

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