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キス キス キス

ゆっくりと顔を上げ体を起こすと、修斗さんは怖い顔をして俺を見ていた。 でもすぐに笑顔を見せ、俺をギュッと抱きしめた。 「康介君、バカだな。俺は康介君のそんな優しいところ大好きだよ……軽蔑なんてしねえよ?」 抱きしめたまま俺の肩に顎を乗せた修斗さんが弾む声でそう言った。 ……軽蔑しない? 俺、優しい? 大好き?? 修斗さんの言葉が頭の中でぐるぐると回る。 「大好き」だと言ってもらえた! 凄く嬉しいけどそれは「友達、後輩」として……俺の思う「好き」とは違うんだ。勘違いしちゃダメだ…… パッと俺から離れ、にこにこと笑顔で俺を見る修斗さん。涙で顔がぐちょぐちょになってるのももうどうだっていいや。修斗さんが笑ってくれてるってだけで俺は心底安心した。 「俺、さっきも言ったけどそんなことで康介君嫌いになんてならないから! もう気にすんなよ。な? 康介君がそんなんじゃ俺が辛いわ……」 修斗さんはそう言うと、しばらく黙って俺の頭上を見上げた。 よかった……修斗さんに嫌われなかった。 涙も乾いてなんだか胸のあたりがホコホコしてくる。安心感と嬉しさで自然と顔が綻んでくる。 自分の単純さにちょっと呆れた。 ……てかさ? 修斗さん、さっきから上見つめてどうしたんだろう。 「修斗さん……?」 俺が修斗さんに話しかけると同時くらいに、上を見上げたままの修斗さんが 「あっ」と小さく声をあげた。 何かと思った俺も、自分の頭上を見ようと思いっきり上を向いた。 その瞬間、何を思ったのか修斗さんが俺の顎にカプッとかぶりついた。 「は?」 驚いて修斗さんを見ると、悪戯っぽく笑って「あごちゅう!」と嬉しそうに言う。 ???? 意味がわからない。 俺今顎にキスされたってこと? ムードもへったくれもなく……噛みつかれただけじゃんか。 「は? 何すんですか ? 顎ちゅうなんて聞いたことないっすよ! ……もう! こんなとこにキスして! バカじゃないの?ヒゲ! ヒゲチクって……」 驚いて訳わかんないことを喚いてしまい、修斗さんはそんな俺に爆笑してる。 何俺急に揶揄われてんの? 楽しそうで何よりだけどさ…… 「修斗さん酷い……」 「だってメソメソしてるの康介君らしくないじゃんか……俺の前では笑っててよ」 そう言って修斗さんは俺の頭を撫でてくれた。 「………… 」 頭に手……そんな些細なことでも俺はドキドキしちゃうんだよ。やめてくれ。恥ずかしい。 俺は堪らず目を逸らしてしまった。 ……修斗さん、何か言ってよ。 修斗さんは揶揄って楽しんでるだけかもしれないけど、俺は辛いよ。 「康介君、小峰とどんなデートしたの?」 やっぱりそれ、気になるよな。修斗さんは俺の頭を優しく撫でながら、結局そこを聞いてきた。俺は正直言いたくなかったけど、しょうがないから簡単に話すことにした。 「……本当にそれだけ? 夜は? 一晩中一緒だったんでしょ?」 「………… 」 そこは一番言いたくないところ。でも修斗さんは「話せ」と迫るから諦めた。 「俺、何か睡眠薬みたいの飲んだらしくて気づいたら次の日だったんです……小峰と添い寝してただけで本当に何もされてません……」 話し終えると物凄くムッとした顔で修斗さんは俺を見ていた。 「……なんかヤダ! 添い寝だけでもムカつく!……康介君、俺にも添い寝して!」 「は? なんでよ! いや……ここでですか? てか、えっ? なんで? 」 添い寝って! 俺が修斗さんに? どんな状況? 「添い寝が無理なら、添い寝のかわりに俺をギュッと抱きしめて!」 なんでだ?……なんで修斗さん怒ってんの? でも嬉しいからいいけど…… ご要望にお応えして、俺は修斗さんを抱きしめた。 うわっ、やべっ! ドキドキしてんの伝わっちゃう。 納得したのか、俺からすぐに離れた修斗さんはまた少し考え、お得意の小首を傾げるポーズでまた俺を見る。 「寝てる間にキスとかされてない?」 …….!? それは考えても見なかった。俺が寝てる間に? いやいや、それはねえだろ。あったとしても俺、寝てたからわからないし…… あれ? 待てよ? これってさ、もし俺がキスされたって言ったらさ……さっきみたいに「じゃあ俺も!」ってことになんねえか? いや……なんねえな。 妄想しすぎ、恥ずかしい。 「俺、寝てたからわからないけど……された、かもしれないし? されてない……かもしれないし?」 ちょっとドキドキしながらそう言ってみたけど、修斗さんは「そっか」 と笑っただけだった。 ちょっとでも期待した自分が恥ずかしい……猛烈に恥ずかしい。 「康介君? 」 呼ばれて顔をあげたら、チュッ…て修斗さんは俺に可愛くキスをしてくれた。 鼻に…… 鼻かよ! と心の中でツッコミを入れるも、嬉しくて笑ってしまった。 「修斗さん……」 「康介君、元気になってよかった」 修斗さんはそう言って笑うと屋上から出て行ってしまった。 ぽつんとひとり、屋上に取り残される。今起こったことをボケっと思い返して、改めて興奮してしまい顔が火照った。 すげえ……! 俺、鼻にチュッってされちった! さっきは顎ちゅう、こないだはデコちゅう……そうだ! 保健室では頬にもキスされたっけ…… やべえ! 嬉しい! ニヤける! 俺は今までの憂鬱が嘘のように、修斗さんのお陰ですっかり元気を取り戻せた。 修斗さんが楽しそうに笑ってくれていれば、俺は片思いでも耐えられる。 あの笑顔が見られれば、俺は何だって出来ちゃいそうだ。 ……恋の力って凄いな。

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