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震える手

「ひゃぁー! 凄かったですね! 僕、吹っ飛ばされちゃうかと思いました!」 先程並んでいたジェットコースターを体験して僕は興奮しきり、益々楽しくてはしゃいでしまった。めちゃくちゃ怖かったんだけど、スリル満点で凄く楽しかった! 「竜太君、凄いね…… 俺、久々で……ちょっとダメかも」 そう言いながら、陽介さんは圭さんにもたれかかっている。 「だらしねえな。修斗もなんか大人しくなっちゃってるし……大丈夫か? お前ら」 そう言いながら一番しっかりしている圭さんが修斗さんを見て笑った。 周さんと康介の待つベンチまで歩いていると、修斗さんが康介に駆け寄っていく。 「康介! 酔ったー! しんどい、お水ちょうだい!」 甘えた声で康介の隣にちょこんと座った。 「だらしないっすね。はい、お水……」 そう言って康介は修斗さんにペットボトルを差し出し「ビビって乗らなかったお前が言うな!」と突っ込まれていた。 「周さん、お待たせしました!」 僕も周さんに寄り添うと、よかったなと笑いかけてくれるのが嬉しくて思わず周さんの手を繋いでしまった。 少しビクッと手を離されそうになったけど「ま……いっか」と呟き僕の手を握り返してくれたから、そのまま僕らは手を繋いで並んで歩いた。 次はみんなで乗れるやつ、と考えて、周さんはだいぶ嫌がったけどタワー物に並んだ。 「ただ上へ上がってから、ビューーって落ちるだけだからあっという間に終わりますよ。だから大丈夫!」 そう言って、嫌な顔をする周さんに納得してもらった。横で修斗さんが、周さんに聞こえないように「竜太君わかってる? これも相当ヤバいやつよ……」と囁いたけど、僕は乗ったことがないからヤバいかどうかなんてわからない。 「大丈夫ですよ、周さん背高いし」 「いや、なにそれ意味わからないし…… 」 見た目はそんな怖そうじゃないから大丈夫だよきっと。 並んでいた順番で、僕と周さんだけみんなと違うグループのゴンドラになってしまった。 ベルトを固定して、周さんと並んで座る。横を見ると、不安そうな周さんと目が合った。 「竜太が一緒に乗りたいって言うから乗ったんだからな……本当に俺、苦手なんだから……」 そうこう言ってるうちにゆっくりとゴンドラは上昇していく。頭の後ろのスピーカーが五十二メートルからの垂直落下だと説明していた。 「周さん! 凄い高いですね! 景色が……」 周さんを見ると、手にグッと力を入れ目を瞑って俯いている。ひと目見て、これは本当にダメなやつだとわかってしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。 ……あぁ、周さん、ごめんなさい。 まさかそんなに嫌だとは思わなかったから。普段の周さんの姿とは打って変わって怖がる様子に罪悪感が膨れ上がった。 僕は慌てて周さんの握ってる拳に自分の手を乗せて、ギュッと掴んだ。 ……ガゴン、という鈍い音と共に乗っているゴンドラが急降下した。物凄い浮遊感にびっくりして声も出ない。そしてあっという間に地上に生還。 別のゴンドラで同じ時に降下していた他のみんながヘロヘロになって出口から出てきた。口々に ヤベーって言っている。周さんは意外にもしっかりした足取りでみんなと合流した。でも「俺はもう観覧車以外は何にも乗らないからな!」と言って睨まれてしまった。 あんなに強い周さんでも苦手なものってあるんだね。繋ぎ直した周さんの手がまだ震えてる。ちょっと可愛いな……なんて思っちゃったりして、繋いだ周さんの指に自分の指を絡めてキュッとした。 「あ! これ乗りましょうよ!」 目の前にさっき話していたメリーゴーラウンド。みんなが 「え?」って顔をする。そして 「ないないない……」と言いながら通過した。 えー? 乗らないの? 僕は乗りたいな。 「あ! じゃあ、メリーゴーラウンドかあそこのティーカップ、どっちか乗りましょうよ!」 子どもの頃、一度だけ乗ったことのあるこれらにまた乗ってみたくなったから、僕はみんなにそう言ってみた。これなら周さんだって大丈夫なはず。 「お馬さんはさすがにキツいから、ティーカップならいいよ! 康介も乗ろっ」 そう言って修斗さんと康介も付き合ってくれた。 僕と周さん、修斗さんと康介、それぞれ別のカップに乗り動き出すのを待つ。陽気な音楽が流れ出し、ゆっくりとティーカップが動き出した。 「竜太、目ぇ回るからあんまり回すなよ」 周さんに言われて初めて自分で回せる事に気がついた。 「え? これ自分で回せるんですか? 僕知らなかった…… 」 そう言いながらハンドルを持ち、少しだけ回してみた。グッと回した分だけ余計にカップが回り出す。周さんの言う通りにカップが回った事が嬉しくて、ちょっとだけ多めに回してしまった。もっと回そうとしたけど、気持ち悪くなるからやめてくれという周さんに従って、これ以上は回さなかった。 横を見ると、物凄い勢いで回転する修斗さんと康介のカップ…… 外野で陽介さんと圭さんが指を指して大笑いしていた。 「あいつらアホだ…… 」 周さんが呆れて呟いたと同時に、ティーカップが終了した。 出口から降りると、ゲラゲラ笑ってる修斗さんとプンプン怒ってる康介が二人仲良く地面にへたり込んで座ってる。 「ひゃぁ回ったねーー! 目ぇ回りすぎて立てねえ!」 「バカじゃないの? 回しすぎでしょ! 俺だって立てねぇよ! 」 「ほらあ、怒ってないで康介、立たせて!」 両手を広げて康介に甘えている修斗さんが可愛い。 「だから俺も立てないんだってば! 見ればわかるでしょ? もう!」 そんな二人は放っておいて、少し別行動しようという事になりそれぞれ他の場所に移動した。 「とりあえず腹減ったら連絡して」 昼食はみんなで食べよう、という事で、圭さんがみんなに声を掛け「また後で…」と歩き出した。

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