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竜太の異変
「先生いる? もう帰ってきた?」
俺は高坂に声をかけながら保健室に入った。中に入るとコーヒーを飲みながら振り返る高坂の姿。
「……なんだよ橘、俺はさっきからここにいるぞ」
面倒臭そうにそう言って、高坂は机の方に向き直った。
まあなんだっていいけど……
「しばらくベッド借りんぞ」
俺はイライラから本当に具合が悪くなりそうで早く横になりたかった。
イライラと不安……今まであまり感じたことのなかったモヤモヤとした感情。俺はどうやって向きあったらいいのかわからなかった。だから一先ず寝りゃ何とかなるだろうとさっさとベッドに潜った。
「おいおい、相変わらず偉そうだなお前は…… でも、どうした? 本当に調子悪いのかな? 顔色ちょっと悪いぞ……」
高坂はそう言いながらベッドに近付き、ふわりと俺の額に手を置いた。
「んにゃ、熱なんかねえし…… ただ寝不足なだけじゃね? 大丈夫だよ、ほっとけ」
俺がそう言うと、高坂は笑った。
「お前なぁ。保健室でサボるならここは‘具合悪いです’って言っとくべきなんじゃないのか?」
「俺は具合悪いです……」
俺は高坂の言う通り、具合が悪いと公言してから「一人にしてくれ」と言い足してベッドに潜り込んだ。
「………… 」
どうしたんだよ、竜太の奴…… 布団に潜り込み、ギュッと目を瞑る。
俺のイライラの原因──
最近竜太がの様子がちょっとおかしい。
連絡してもつながらない。メッセージを送ったって返事も来ない…… いや、来るんだけど、返信が遅いんだ。酷いときなんか次の日にくる始末。
今まではすぐに返事をくれてたのに。こんな事今までなかったんだ。
何日か前に竜太とちょっとした喧嘩をした。
些細なことなんだけど、竜太が俺に突っかかってきたのが少しショックだった。
もしかしてそれが原因かなとも思ったけど、それにしたって些細な事だし竜太が俺から距離をおこうなんて考えるようなことじゃない。だって一緒にいる時はいつも通りの竜太なんだ。でも考え事をしているのかぼんやりしたり、上の空だったりすることが多くなった。
とにかく何だか変なんだよな。
凄え違和感……
でも……気のせいかな。たまたま、かな。
竜太はいつも笑顔で、俺がいると嬉しそうにしてくれてたのに……
なんか寂しい。
今日の帰りは一緒に帰れるか、竜太にメールを送ってみた。
俺はバイトだけど一緒に帰る時間くらいはある。そう思って返信を待ったけど、やっぱり竜太からは何の連絡も入らなかった。
何でだ? 何でそんなに素っ気ないんだ?
部活で忙しくて携帯に気がつかなかったんだな? そうだよ、竜太の奴、いつもぼんやりしてるからきっと鞄の奥の携帯に気がついていねえんだ。
一生懸命自分にそう言い聞かせてみるけど、それでもやっぱり不安は拭えなかった。
俺からどんどん竜太が離れていってしまうようで怖くなった。
ひと休みしたら教室に戻って……修斗に相談してみようかな。
そう思い、とりあえず俺は目を瞑った。
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