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面接

僕は今、人生で一番と言っていいくらいに緊張している── 喫茶店の奥の席に座る僕。目の前には髭を蓄え少し強面の男が無言で僕を見ていた。その一歩後ろにはニコニコ笑顔の陽介さんが立っている。 「………… 」 緊張のあまりゴクリと唾を飲み込む音も聞こえてしまいそうな静かな店内…… 早く、早く何か喋ってほしい。 「……君、採用ね」 僕を見つめていたその人は、ニコリと笑ってひと言そう言うと、後ろの陽介さんの肩を叩いて事務所に入っていった。 「ふぁぁ…… 」 緊張から解放された僕は思わず声を漏らしてしまった。そんな僕を見て、陽介さんはクスッと笑う。 「よかったね、これからよろしくね、竜太君 」 陽介さんは僕の頭をぽんと撫で、そう言った。 先程の強面の男の人はここの喫茶店のオーナー。アルバイトの面接でさっきまで色々とオーナーの質問に答えていたんだ。僕は緊張で自分でも分かるくらい声が震えてしまったし、もうだめかもしれないと半分諦めて返事を待ったけど、幸いにもすぐに「合格」を頂けた。 陽介さんはこの店のバイトを纏めるバイトリーダー。そう、僕は学校に程近いこの喫茶店で短期でアルバイトをすることにしたんだ。合格できて本当に良かった。 何故ならそれは年明けの周さんの誕生日のため! お小遣いを少しでも多く手に入れて、周さんのために使うんだ。周さんが僕にしてくれたようにはいかないかもしれないけど、僕だって周さんに喜んでもらえるように頑張ろうと思って一大決心をした。僕はアルバイトなんてした事がないから不安しかないけど、陽介さんがいるなら心強い。 「竜太君、じゃあこっち来て」 そう言って陽介さんに連れてこられたのはロッカールーム。 「竜太君はここね。俺の隣使って…… で、出勤したら最初にここで支度して、タイムカードを通す。明日から俺も一緒に入るから頑張ってね」 今まで見たことのないお店の裏側を間近に見て、ここで働くんだという実感がじわじわと湧いてきた。 どうしよう…… 今から凄い緊張する。僕、大丈夫かな? 「……陽介さん、僕アルバイトも初めてだし……大丈夫でしょうか?」 不安だらけで陽介さんにそう言うと「誰だって最初は初めてなんだから」と笑われてしまった。 「それにこの店、めっちゃ暇だから安心しな。簡単だし気負うことはないから。あ、少しコーヒーでも飲んでいきなよ。俺これからバイトだし、ざっと仕事内容見ていけば?」 そう言われて僕は頷き、奥の方の邪魔にならない席に案内してもらった。 お客さん…… 初老の男性が一人と年配のご婦人二人組だけ。静かなジャズが流れる店内はかなり落ち着いた雰囲気だった。 陽介さんは白いシャツに、あれはギャルソンエプロンっていうのかな? 黒の長めのエプロンを腰に巻いてカウンターの中でコーヒーを淹れている。 ……かっこいいな。 僕もあんな風にサマになるのかな。 全く自分が働いている様子が想像できなくてただただ緊張だけが募っていった。 しばらく店内を眺めていると、カランコロンと入口のドアについたベルが鳴った。 またお客さんかな。今度はどんなお客さんだろうかとチラッと見てみると、入ってきたのは保健医の高坂先生だった。 「あれー? どうしたの? なんで竜太くんがこんなところにいるのかな」 にこにこしながら、僕の座るテーブルに来る高坂先生。 「……あ、あの、僕ここでアルバイトすることにしたんです」 僕の言葉に先生は驚いた顔をした。 陽介さんがオーダーを取りにテーブルに来たけど、明らかに嫌そうな顔…… お客様相手にしている顔じゃないよね? 陽介さん、先生のことそんなに嫌なのかな? 見ている僕の方がハラハラしちゃう。 「竜太君、そう言えば誰彼構わず色目使ってくる常連客がいるから気を付けてね」 「やだなぁ、それって僕の事? 陽介くんたら、新人君に間違った情報吹き込まないでよね」 陽介さんとは違い、凄く楽しそうな高坂先生。 「先生はここの喫茶店、よく来るんですか?」 それにしても白衣じゃない高坂先生ってなんか新鮮だ。私服でもカッコいいんだな…… 「うん、よく来るよ。僕はここのコーヒーが好きなんだ。あと、ここの店員みんなイケメンでしょ? だから何となく来ちゃうんだよね。竜太くんがバイト始めるなら尚更僕、毎日でも来ちゃうよ」 先生は相変わらずフワフワと調子のいいことを言って僕を笑わせてくれた。ちょっと緊張も解けた気分だ。 ふと志音のことを思い出す…… 志音が高坂先生と付き合ってるって本当なのかな? あんな風に軽い発言したり遊び人を装ったりしてるけど、本当は志音と付き合ってるんじゃないのかな? ちょっと聞いてみたかったけど、陽介さんが益々不機嫌になってきたから僕はお喋りをやめてぼちぼち帰ることにした。 「陽介さん、ありがとうございました。明日からよろしくお願いします」 陽介さんと高坂先生に挨拶をして、一人家に帰った。

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