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須藤さん
ようやく僕も上がる時間が来て、初めてのアルバイトは無事に終了──
僕の上がり時間に合わせて入れ替わりでまたアルバイトの人が入る。その人にも簡単に挨拶を済ませると、僕はロッカールームへ戻った。
須藤さんも僕と一緒の上がり時間なので、二人でロッカーで着替えを済ませる。
「渡瀬って、鷲尾さんの紹介だったんだな」
エプロンを外しながら、須藤さんが僕に聞いてきた。
「はい。同じ学校の先輩なんです」
鷲尾さんって……陽介さんの事か。あまりにも普段から康介や陽介さんって名前で呼んでいるから苗字を一瞬忘れてしまった。
「初めてのわりに頑張ってたな。一生懸命が伝わって良かったと思うぞ」
須藤さんは表情を変えずに話すから、あんまり感情が伝わりにくい。
「ありがとうございます」
それでもこうやって僕に気を使って話しかけてくれるから、きっといい人なんだと思う。須藤さんて、仕事中もあんまり愛想もないし怖い感じだったけど……ちゃんと見ててくれて、褒めてくれて嬉しかった。
でも目つきが鋭くて、やっぱりちょっと怖いや。
一緒にお店から出ると、須藤さんも僕と同じ方向に歩き始める。しばらく歩いてもずっと隣にいるので帰る方向が一緒なのかな? と思い聞いてみた。
「あれ? 須藤さんもこっち方面なんですか?」
そう僕が聞くと、やっぱり須藤さんは表情を変えずに小さく頷いた。
お店を出てからしばらくは街灯も少なく、かなり暗い道が続いている。須藤さんは僕と並んで歩きながら、何かお喋りをするわけでもなく、時折僕の顔をチラっと見るだけ。
……なんだか気になる。
なんですか?と聞こうとしたら、先に須藤さんが話しかけてきた。
「渡瀬は次はいつバイトに入ってんだ?」
え?
「明日も同じ時間でバイト入れてますよ」
そう答えると、わかった……とひと言。
また沈黙。
なんだか変な空気が気になりつつ、結局方角が一緒だからと僕の家まで須藤さんと一緒だった。
あれ? 僕、須藤さんに送ってもらったみたいになっちゃった。
「僕、家ここなんです。須藤さんお疲れ様でした。また明日……」
家の前で立ち止まりそう言うと、須藤さんも「お疲れさん」と手を上げ帰って行った。
部屋に入り、ベッドにドスンと横になる。立ち仕事って凄い疲れる……
仕事中は気が張ってるから気にならなかったけど、家に帰ってホッとするとドッと疲労感が湧いてきた。
でも、これは周さんのため! 喜んでくれる顔が見たいから。
明日も頑張って働くぞ。
お風呂からでると、ちょうど僕の携帯が鳴った。頭を拭きながら携帯の画面を見るとそこには周さんからの着信を伝える文字。
「もしもし! 」
僕は嬉しくて飛びついて電話に出るけど、電話の先の周さんはなんだか元気がなくて心配になってしまった。
「周さん? どうしたんですか?」
「……竜太の声が聞きたくなった」
……え?
声が聞きたいと言われて嬉しいのだけど、でもこんな弱々しく話す周さん、初めてだった。
「あま〜ねさん?…… 元気がないですね。大丈夫ですか? 明日は僕と一緒に学校行きましょ。朝迎えに行きます。ね? いいですか?」
周さんが元気がないの、多分僕のせいだ。
康介に嘘がバレバレだって指摘されたし、周さんからのメールの返信も遅れがちだし……
やっぱり周さんに寂しい思いをさせちゃってるのかもしれない。
ごめんなさい。
僕はなるべく周さんと会うようにしようと思ってそう言った。
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