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俺の知らない…
竜太のやつ、絶対に何かおかしいんだ──
昼休みも一緒に帰ろうと言う俺に対してあからさまに挙動不審な態度を取った。部活に行かなきゃいけないから一緒には帰れない……たったそれだけの事を言うだけなのに、明らかに動揺しながら何かを隠す態度に俺は何も言えなかった。
胸の奥がチクっとする……
修斗も康介も、何か言いたそうな顔をして俺と竜太の顔を見ている。
なんなんだよ……
放課後なんとなしに美術部の部室を覗いてみたけど、予想通り部活に出ている筈の竜太の姿はなかった。
教室に戻る途中で康介に会った。
「なあ、竜太は?」
「竜ならもうとっくに帰りましたよ」
何も考えなしの即答だよ。康介だってあの時一緒に竜太は部活だって聞いてただろ? 何がとっくに帰っただよ……
でもこれではっきりした。やっぱり竜太は俺に嘘ついてたんだ。
取り敢えず俺は今日もバイトだし、帰ったら連絡をしてみよう。
バイト中も、竜太がなんで嘘をつくのかが気になってしょうがなかった。俺が何か怒らせるようなことをしたのか…… いやそんなの全く心当たりはない。
色々と考え事ばかりしていたから、今日は仕事中ヘマばかりやって怒られた。
面白くねえな……
バイトが終わって帰り道、竜太の事ばかり考えてたら思わず竜太の家の方へ足が向かってしまっていた。
一体俺は何をやってんだか……
だいぶ遠回りしちまったって思った矢先、角を曲がった所で遠くに人影を見つけた。あの辺りは竜太の家がある。家の前に人影が二人……
竜太と……誰だ?
遠いし暗くてよくわからないけど、確かに今家に入って行ったのは竜太だった。その竜太に手を振り、向こうへ歩き去って行った男。多分俺が見たことない奴。
……誰だよあいつ。竜太、親しげに笑ってた。
胸の動悸が激しくなる。なんだよこれ。俺の知らない奴と今まで一緒にいたって言うのか? 俺に嘘をついてまで? どういうことだ?
スパーンと何かで頭を叩かれたような衝撃…… こんな事、夢にも思っていなかったから俺はどうしたらいいのかわからなかった。そこからどうやって家に帰ったのかさえよく覚えていない。びっくりするほどポンコツ…… でも竜太に電話したような気がする。気がついたら自室のベッドの上で俺は朝を迎えていた。
携帯を確認すると、竜太に電話したのは夢じゃなかったのがわかった。
俺、竜太と何話したんだ?
焦っていたら、朝っぱらから誰かが来た。
……なんだよ。
お袋はいないし、シカトしようと思ったけどしつこく呼鈴を鳴らすもんだから、俺はイラつきながら玄関を開けた。目の前にいたのは笑顔の竜太。昨日の今日で、俺は心臓が飛び出るくらい驚いてしまった。
「あー! 周さん、まだ支度してなかったんですか? もう学校行く時間でしょ?」
目の前で笑顔で怒ってる竜太に、俺はどうしていいのかわからずにいると「支度してください」と言いながら俺の手を取ろうと竜太が手を差し出してきた。
ハッとして俺はその手を思わず払ってしまった。ぼんやりとする頭で、昨晩の電話で竜太が朝迎えに来るって言ってたことを思い出した。
俺に手を払われポカンとしている竜太に出来るだけ冷静に言葉を発する。動揺してるなんて悟られたくなかった。
「寝坊したんだわ…… 俺、後で学校行くから…… 悪いな、先に行っててくれ」
それだけ伝えると、竜太は わかりましたと小さく言って出て行った。
やべぇ……俺、動揺しまくりだ。
竜太の様子がおかしいのも昨日の男が誰なのかも、俺に嘘をついてるのも気になるし問い詰めたい衝動にかられてしまう。でも、竜太が俺になにかを隠したがってるのに、俺が問い詰めて竜太を困らせてしまうのも嫌だった。
もしかしたら俺から心が離れかけてしまってるのかもしれない…… そう考えたらどうしようもなく怖くなってしまって、竜太になにも言えなくなっていた。
……でもさ、昨日保健室で俺から嫌われたかもと言って震えて泣いていた竜太。
俺はその竜太を信じていいんだよな?
考えれば考えるほど怖くなってしまってしょうがなかった。
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