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誕生日のご馳走は…
「結局どんなご馳走を作ることにしたの?もう決めた?」
キッチンで圭さんに聞かれた僕は、ずっと考えていた内容を圭さんに話した。
「…… 僕、ご馳走、というかお弁当にしようと思って」
カウンターに座った陽介さんが「なんで弁当?」と不思議そうに声を上げた。そうだよね。料理教わってるんだもん。ちゃんとしたご馳走を……って普通は考えるよね。でも当日のことを考えたら弁当が一番いいんじゃないかって思えてきたからそう決めたんだ。
「雅さんが留守なのに勝手に台所使うのは失礼だし、かといって家で作ったのを持って行くのもなんだか大変そうですよね…… あと、お仕事で疲れた雅さんにも帰ってから食べてもらえたら嬉しいなって思ったので。だからお弁当がいいかなって思ったんです」
話を聞きながら、圭さんと陽介さんが僕のことをジッと見つめる。
「…… 竜太君ってほんといい子だな。雅さんにもって…… そこまで考える? でもさ、緊張しない? 一応あれでもお母さんだよ?」
あれでも…ってなんか少し失礼。
「周さんの誕生日だけど、その日は雅さんが大変な思いをして周さんを産んでくれた日でもあるから…… 僕がありがとうって雅さんに言うのもおかしな話かもしれないけど、でもやっぱり雅さんにもおめでとうって気持ちを伝えたいんです」
この計画を考え始めた時から、僕は周さんと雅さんの二人にお祝いを考えていたんだ。圭さんに料理を教わり、相談に乗ってもらい、今やっとお弁当を作ろうって考えに落ち着いた。
「ケーキとお弁当ってやっぱりおかしいでしょうか……?」
決めたものの、やっぱり少し不安になり二人にそう聞いてみる。
「ううん、全然いいと思うよ。竜太君のその考え、雅さんも凄く喜んでくれるよきっと。……それにしてもさ、勝手に台所を使えない、なんて嫁の発想だよね。気の使い方な。竜太君、いいお嫁さんになれそう……」
陽介さんが笑う。
僕もつられて笑っちゃったけど……嫁? これって褒めてくれてるんだよね?
「お弁当ならさ、中身はどうするん? 冷めても美味しいものじゃないとね。卵焼きはさ、俺は陽介の好みで甘くしちゃうんだけど…… 周はどうなの?」
「あ、周さんよく僕のお弁当つまみ食いするけど卵焼き美味しいって言ってくれたから、母さんの作り方を教わることにします。うちのあまり甘くないんですよね」
圭さんに色々と相談をし、冷めても美味しい唐揚げや炒め物、和え物のレシピを教えてもらった。ケーキも甘さ控えめなチーズケーキを作ることにした。
「明日はバイトないんだろ? チーズケーキ作る練習しに来てもいいよ」
僕はお言葉に甘えて、次の日も圭さんの家に寄らせてもらうことにした。勿論周さんからのメールには、明日も部活があるからって返事をして誤魔化した。
周さんは一時様子がおかしくなったけど、今はいつもと変わらない周さんだ。元気がなかったのは恐らく僕のせいなんだろうけど…… きっと大丈夫だよね。
もう少し待っててね、周さん。
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