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しどろもどろ

「周さん……あれ? もしかして、渡瀬が言ってた恋人って周さんの事?」 須藤が驚いて俺に聞く。 「当たり前だ! じゃなきゃお前にこんなに突っかかってねえよ」 俺は胸を張って須藤に言った。 「え……でも男同士で」 なんだか戸惑っている様子の須藤にイラっとする。 「男同士じゃ悪いのか? 俺は竜太が好きなんだ。男とか女とか関係なくね?」 ……たまに言われる。男同士なのに? って。同性はダメだって誰が決めたんだ? それを言われるたびに、何で俺は当たり前の事を言わなきゃいけないんだってイラついてしまう。 好きになるのは異性だからじゃねえよ。男だから、女だから…… 俺にとってはそんなのは関係ない。 俺は竜太だから好きなんだ。他人にとやかく言われる筋合いはない。 「須藤もこないだのライブと打ち上げ来てたよな? 竜太君、ライブの時も打ち上げの時も周にずっとくっついてたけど、気がつかなかった?」 どう見ても付き合ってんだろって態度だからわかるだろう…… と陽介さんが須藤に聞いた。 「いや、ライブの時もわからなかったし、打ち上げは…… あ! えっと、俺酔っ払ってて陽介さんに説教されてて…… ははっ…… わからなかったです」 急にしどろもどろになる須藤がちょっと気になったけど、そんなことよりそうだよ! 何で今日は竜太いないんだ? 部活だって俺に嘘ついてここにいないなら、いったいどこに行ったんだ? 「陽介さん! なんで竜太いないの? 今日も部活だって俺に嘘ついてたからてっきりここかと思ったんだけど……」 すると陽介さんもなんだかしどろもどろになり、慌てた様子で俺に言った。 「いや、竜太君は…… バイト来たんだけど…… えっと、すぐに具合悪くなって帰った…… あ! いや、病院行くって言ってたから家にはまだ帰ってないぞ。そう! 竜太君ちには行くなよ! …… うん、いないと思うから……」 あれ? 陽介さんさっきは竜太、シフト入ってないって言ってなかったっけ? でも、嘘だろ? 病院行くほど具合悪いのか? 大変じゃねえか! 「陽介さん! 竜太貧弱だからバイト無理してたんじゃねえんすか? どこの病院? 俺行かないと!」 陽介さんに詰め寄るも、珍しく陽介さんが慌てふためいて俺を宥めた。 「い、いや、大丈夫だから! …… 病院はどこに行ったかわからないし、周はおとなしく家に帰ってろ。な? 竜太君ちには行くなよ! 行ったってどうせいないから!」 慌てる俺と、妙に狼狽えてる陽介さんのやりとりを須藤はポカンとして眺めている。 俺はこのままここにいてもしょうがないので、コーヒー代をテーブルに置き店を飛び出した。

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