313 / 432

チーズケーキ講習

今日は学校が終わって真っ直ぐに圭さんの家に向かった。 チーズケーキの作り方を教わるんだ。 圭さんは既にいつものエプロンを着けて僕を待っていてくれた。 「チーズケーキとかスイーツはね、教えるってほどでもないんだよ。分量さえちゃんとしてれば簡単だから 」 そう言いながら、圭さんはキッチンに必要な物を並べていく。 砂糖、クリームチーズ、生クリーム、ヨーグルト、卵に小麦粉、その他色々…… 圭さんが必要な分量を順番に言っていくのを僕はメモにとっていく。 圭さんは僕の目の前で手際よく材料を混ぜていき、あっという間に生地が完成した。 「そうそう、オーブンをね、予熱しておくの。170度くらいかな? 予めあっためといてから焼くんだよ。30分を目処に焼き上がりを見て、焼き足りなそうなら数分また焼いてみてね」 そう言いながら、薄く油をひいておいた型に生地を流し入れ、予熱の終わったオーブンに入れる。 見てるとあっという間でとっても簡単そう。 でもきっと僕がやると上手くいかなくて、こぼしたりヘマしたりするんだろうな…… 容易に想像できて、自分の手際の悪さにガッカリしてしまった。 使い終わった道具を洗いながら、僕はぼんやりと考える。これは何度も何度も自分で作って練習しないと上手にできないと思うから頑張ろう。 「焼きあがるまで向こうでお茶でもしよっか? コーヒーにする? 紅茶もあるよ」 「あ、紅茶いただきます」 リビングのソファーに腰掛け、圭さんが持ってきてくれた紅茶を啜る。 「竜太君は家でも料理練習してるの?」 圭さんに教わるようになってから、僕は家でもなるべく母さんの手伝いを装いながら料理の練習をしている。 やり始めると案外面白くて、一品二品は任されて作れるようにもなっていた。 「圭さんが最初に野菜の切り方から丁寧に教えてくれたお陰で、家でも料理の手伝いしながら練習出来てますよ。母さんに最近よく褒められるんです…… 本当は母さんのためじゃなくて周さんのためなんですけどね」 圭さんが「よかったな」と言ってまたお弁当のおかずに丁度いいというレシピを教えてくれた。 「あれ? 周さんかな?」 テーブルに置きっ放しの僕の携帯がメッセージの着信を伝える。画面を見てみると、それは周さんではなくて陽介さんからのメッセージだった。 何だろう? 「陽介さんからだ…… 」 そう僕が呟くと、圭さんが首を傾げてどうしたんだろうねぇという顔をした。 『周が店に偵察に来た。そんで須藤と一悶着やった。竜太君がなんでいないんだ? ってなったから咄嗟に誤魔化したんだけど、ごめんな。上手く誤魔化せなくて、周が飛び出してったわ。とりあえず、病院行った後周に会ったら体調は大丈夫って言ってやってくれ』 「……?」 周さんがお店に来たの? 須藤さんと一悶着? 体調? 病院? 僕の体調のことかな? へ? 僕は元気だよ? 「圭さん…… 陽介さんの言ってる事よくわかりません、何だろう?」 僕は圭さんに助けを求めて、携帯の画面を見せた。 「………… 」 しばらく黙って圭さんは携帯を眺める。そしてクスッと笑って説明してくれた。 「これは咄嗟に、竜太君が体調崩して帰った…… とでも言ったんじゃないかな? で、心配した周が竜太君ちに行くって言うのを聞いて、病院に行ってるからって言ったんだと思うよ」 ……なるほど。 「なら、僕は早目に帰ったほうがいいでしょうか?」 あ、でもチーズケーキの焼けるいい匂いがしてきた。 「もうじきチーズケーキ焼きあがるから、もう少し待っててよ。せっかくだから持って帰って。周なら少しくらい待たせても大丈夫でしょ」 はは… 僕はとりあえず、心配してるであろう周さんにメッセージを入れておくことにした。

ともだちにシェアしよう!