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兄弟じゃなくて…
なんとなく、いつものように周さんの胡座の中に座り僕はぴったりと身を寄せる。
やっぱりここが一番落ち着く……
「周さん、僕の事心配してここまで来てくれたんですか?」
照れ臭そうに、そうだと呟く周さんの頬を捕まえて僕はそっと口付けた。
「嬉しいです……」
「もーーー! 竜太のばかたれ!照れんじゃん」
そう言って、赤い顔をした周さんがまた苦しいくらいギュッと抱きついてきた。いちゃいちゃと二人で触れ合う幸せなひと時。
そんな事をやっていたら、階下から母さんの呼ぶ声が聞こえた。
「周くんもよかったら夕飯食べてっちゃいなさい」
どうやら母さんは周さんの分も夕飯を用意してくれたらしい。遅いから遠慮するなと少し強引に言われ、それを聞いた周さんは「やった!」と小さくガッツポーズをする。
「このままお泊まりパターンだな 」
周さんはそう言って僕にウインクすると、スタスタと階下へ降りていってしまった。
すぐに周さんが部屋に戻り、泊まってもいいか母さんに聞いてきたと嬉しそうに僕に言う。周さんてば、いつのまにか母さんと仲良くなってる。
「ここんとこ、あまり竜太と一緒にいられなかったからさ」
「はい、嬉しいです」
夕飯が用意され、周さんと並んで食事をする。
今日のメニューはカレーライス。周さんはガツガツと食べるのも早い。あっという間に食べ終えて、おかわりまでしていた。
頬にカレーをくっ付けてる周さんが可笑しくてお絞りで拭いてあげると、目の前で僕らを見ていた母さんが楽しそうに笑った。
「ほんとに仲がいいのね。兄弟みたい」
ふと、周さんが僕を見る。
なんだろう?
周さんは笑顔のまま、母さんに向かって訂正した。
「お母さん、それ言うなら兄弟じゃなくて恋人同士みたい……でしょ?」
「………… 」
母さんは目をパチクリさせて、ふふっと笑う。
「あらぁ! それもそうね! イチャイチャした感じは兄弟より恋人って感じかしらね?」
母さんは周さんが冗談を言ったと思ったらしく、僕らのことをちょっとだけ揶揄った。
周さんも母さんと一緒に笑ってる……
母さん……
きっと周さんは冗談で言ったわけじゃないよ。
本当に僕と周さんが恋人同士だとわかったら、母さんはどう思うのだろう。
雅さんみたいに喜んでくれるのだろうか。
僕は複雑な気持ちで 残りのカレーを口に運んだ。
夕飯を終えて僕らは部屋に戻った。
「竜太の母ちゃんの飯って何でも美味いのな」
カレーを二杯もおかわりした周さんが満足そうに僕に言った。
「……周さん、さっきの…… 僕ちょっと焦っちゃいました。ごめんなさい……」
さっき周さんが母さんに恋人発言をした時、僕は咄嗟に「周さん! 何言ってるの?」と思ってしまった。
周さんは照れ屋さんの所はあるけど、基本的に僕の事が好きだって事は堂々としてくれてる。僕だって胸を張って周さんの事を好きだと言えるって思ってるのに……
でもやっぱりどこか後ろめたい気持ちがあるのか、咄嗟にそう思ってしまったことが申し訳なく感じてしまった。
「ん? ああ、驚かせてごめんな。軽い冗談だよ…… 竜太の家族は知らないんだもんな俺たちの事」
「………… 」
本当は謝るような事じゃない。胸の奥がモヤっとして、なんだか周さんの顔が見られなかった。
「母さんも雅さんみたいに笑って認めてくれるといいんだけど…… 多分、驚いちゃうと思います…… なんか、ごめんなさい。コソコソしてるみたいで周さん嫌ですよね……」
気にすんな、と言いながら笑って周さんは僕の頭を撫でてくれるけど、周さんはどう思っただろうか。
「そういやさ、竜太んち来るといつも母ちゃんだけだけど…… 竜太の親父さんは?」
「あ、父さんは仕事が忙しくて出張が多いんです。殆ど家にはいませんね。あちこち行ってるか、こっちにいても帰りは深夜だから、母さんと二人暮らしみたいなものなんです」
周さんは僕に聞いておきながら「ふぅ〜ん」とあまり興味がなさそうな返事をして僕に手招きをする。僕は呼ばれるままに、また周さんの足の間におさまった。
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