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ドキドキ卵焼き
昼休み、周さんと修斗さん、康介と一緒に二年生の教室で一緒に過ごした。そして明後日からの冬休みの話題になった。
「周さん? 僕年越しライブの事、聞いてませんよ……」
年末の年越しライブの話になったので、僕は周さんにそう言った。周さんは当然のように「一緒に年越しするの楽しみだな」なんて言ってるんだもん。
「嘘だ!」
「嘘じゃありません…… 聞いてないです」
周さんは驚いた顔をしてるけど、いやいや、ほんと聞いてないからね、僕。
「言ってなかったっけ? 悪いな、うっかりしてた」
申し訳なさそうにそう言う周さんに、僕もなかなか「実は行けない」と言えなかった。僕だって周さんに家族旅行のことを言ってない……
でも黙ってるわけにもいかないので意を決して僕は周さんを見る。
「ごめんなさい! 周さん、その日僕は家族旅行で行かれないんです」
そう言うと、周さんはポカンとして僕を見た。
「家族旅行って…… 竜太小学生じゃあるまいし、別に行かなくてもいいだろ?」
それはそうなんだけど、でも……
「父さん滅多に連休なんてないから、毎年この時期の旅行は恒例なんです。家族で温泉行って、そのまま親戚の家に正月の挨拶に行くんです…… ほんとごめんなさい……」
「ああ、いいよ…… そうだよな、ごめんな。気にすんな! そのかわり帰ってきたらすぐ会おうな。俺、寂しいから…… 」
「周さん、僕と一緒に初詣、行ってくれますか?」
周さんが「もちろん」と言って笑ってくれた。
こんなやり取りを修斗さんと康介がポカンとして見ている。
「こないだっからさ、周のデレデレっぷりが気持ち悪いんだけど……」
「日に日に竜と周さん、イチャイチャっぷりが増してる……」
呆れている二人をよそに、僕は周さんとくっ付いてお弁当を食べ始めた。
そう! 今日のこのお弁当、実は僕が自分で作ってみたんだ。思いの外上手くいった。勿論周さんには内緒。
「お! 竜太の母ちゃんの卵焼き! 」
そう言いながら手が伸びてきて、僕の卵焼きが周さんの口の中に放り込まれた。
「あ! 周さん! 勝手に食べないでください!」
もぐもぐしている周さんを恐る恐る見てみる。いきなり食べちゃうなんて聞いてない。心の準備ってもんがあるだろ……
「周さん…… お、美味しいですか?」
どうしよう…… 母さんの味と違うって、変に思われないかな。今日の卵焼きはなんだかイマイチ、なんて言われたらショックだ。
しばらく黙ってもぐもぐしている周さんが、ゴクンと飲み込み僕の顔をジッと見てから少し首を傾げた。
「……ん? なんだろ? 気のせいかな? いつもの味と少し違う?」
嘘でしょ? 周さん、味の違いがわかるの? やだー! やっぱりいきなりダメ出しされちゃうのかな……
「いつもの卵焼きも美味いんだけどさ、なんだろう? 今日のは更に美味く感じる。竜太の母ちゃん、作り方変えた?」
それって母さんのより美味しいってことだよね? すごい嬉しい! 僕はニヤけそうになるのを堪えながら「気のせいですよ」と周さんに伝えた。
周さんのつまみ食いのおかげで自信がついた。
また頑張って練習しよう!
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