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竜太のいない大晦日

冬休みが始まった── 年末まで俺はバイト。 俺が休みに入ると入れ違いのように竜太は家族で旅行に行ってしまい、俺は学校で会ったっきり冬休みは竜太と会えていなかった。 そして今日は大晦日。 年越しライブだ。 俺と付き合い始めてから、竜太は一度だってライブに来なかったなんてことはなかったのに…… 今日はいない。 竜太がいないだけでこんなにやる気が出ないなんてさ。超つまんねえ。 顔に思っきり出てたみたいで、控室で圭さんに怒られてしまった。圭さんは可愛い顔して凄え怖いから、怒られると本気で凹む…… 「周! 竜太君がいなくたって真面目にやれよ! それにさ…… 」 圭さんが俺をジッと見つめる。 「……楽しもうぜ! な?」 ポンと軽く肩を叩かれ、圭さんの言いたい事が伝わってしまい思わず泣きそうになってしまった…… 「周…… お前がそんな顔すんなって。まだまだやるよ! はいっ! 気合! 」 そう言ってにっこり笑った圭さんが俺の頬を両手でパチンと叩いた。 「……はい」 俺は自分でも頬を軽く叩いて気合を入れ、ステージに上がった。 会場は、大晦日のカウントダウンイベントというだけあって、普段のライブより全然客が多く大盛り上がりで終わった。 年、明けたな…… 俺は竜太にメールで新年の挨拶を送った。 ライブも終わり、今日は打ち上げもなく圭さんは陽介さんと、修斗は康介と一緒に帰って行った。俺は靖史さんに呼び止められ、一緒に飲むことにした。 よく考えたら俺は靖史さんとサシで飲むのは初めてかもしれない。今更だけどちょっと緊張してしまう。 近くの居酒屋に入ると、早速ビールで乾杯をした。 「あけおめー! 今日もお疲れー!」 靖史さんとジョッキを合わせ、ビールを煽った。 「周と二人で飲むの初めてだよな? なんか新鮮だ」 長い髪を後ろで纏めながら靖史さんはそう言って笑った。 「靖史さんは今日は彼女さんと一緒じゃなくていいんですか? ライブにもあまり来ませんよね?」 靖史さんには彼女がいる。 でも滅多にライブには来ない……と言うか来たことあんのかな。俺は見たことがない。 「いや、ライブはガラの悪い奴も多いから女の子はあんまり…… な。明日…… あ、もう今日か。昼間二人で初詣は行くぞ。毎年由香んちでお節食べてから初詣なんだよ」 そうなんだ…… ちょっと羨ましく思った。彼女の家でお節って、家族も一緒って事だろ? それは彼女の家族に認められているということだ。 「靖史さんは、彼女さんの家族にちゃんと挨拶済ませてるんですね」 そう言うと、少し照れ臭そうに笑った。 「付き合い始めてすぐに由香んち行って、とりあえず挨拶はしたな。由香は真面目なタイプだからさ、万が一 俺なんかと一緒にいるところなんて見られでもしたら、親御さん心配すんだろ? なら始めっから俺はこんな奴ですって伝えておいたほうがいいかと思ってな」 靖史さんって、やっぱり男らしいよな。普通彼女の親なんて緊張するし、出来ることなら会いたくないって思うでしょ。 「俺は……ダメだな」 思わず呟いたら、靖史さんが優しく俺を見た。 「お前らは、こういうのは難しいところだよな。たとえ偏見はないといっても、実際自分の息子が……ってなるとどうなんだろうな。確か周の親は竜太君の事知ってたんだっけ?」 「ああ、俺のお袋は知ってる…… 可愛い息子が増えたって喜んでますよ。あいつは単純だから……あんま深く考えないんだと思います。竜太の母ちゃんは、俺の事は気に入ってくれてるのはわかるんだけど、やっぱり恋人だとはなかなか言い出せないですね……」 「そっか。圭と陽介も、お互いの親には言ってないし、圭なんかは言うつもりもないって言ってたな。まあ、考え方はそれぞれだし。周はどうしたいの?」 俺は……どうしたい? 「お前は将来をどう考えてる? 高校卒業したら、また周りが変わるぞ? 間違いなく世界が広がる。その世界の中に竜太君は居るのか?」 ……? 何言ってんだ? 卒業したって竜太とは変わらず付き合ってくに決まってんじゃん。 靖史さんが言いたい事ってそういう事だよな? 「俺、卒業しても、どんな状況になっても、もちろん竜太と一緒にいますよ?」 少しムッとして靖史さんに言った。 「親に話すのはさ、焦らず竜太君と二人でゆっくり考えるといいよ……先は長いんだろ? デリケートな事だからね」 靖史さんに言われ、俺は頷く。 「…… 俺が認められたいって思うのは、きっと俺の自己満なんだよな。心のどこかでは、別に言わなくてもいいじゃんって思ってる自分もいるし。自分の自己満のために、大切な人を傷つける可能性もあるもんな……」 俺がぶつぶつと呟くように話していると、靖史さんは笑って俺の頭を撫でてくれた。 「周はさ、見かけによらず真面目でいい子なんだよな。お前ならどんな決断をしてもきっと上手くいくよ。大丈夫だ。俺が保障する……」 「……靖史さん。ありがとう」 ちょっと酔ったかな? 靖史さんが優しくて泣きそうになった。

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