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小さい竜太の正体は
「この子は伊織 、僕の従兄弟なんです。少し生意気ですけど…… 実は今日と明日、預かることになって一緒に帰ってきたんです…… 言ってなかったですよね。すみません、周さん」
「いや…… 別にいいって。謝んなよ」
そうは言ったものの、せっかくやっと竜太に会えたっていうのに二人っきりじゃないのがちょっと残念だった。
それに少し生意気?…… 少し? いやいや、だいぶ生意気だぞ? こいつさっきから敵意剥き出して竜太の後ろから俺の事を睨んでますけど? 竜太の前では本性隠してるってタイプだ。気にくわねえな。
「よろしくな、伊織 」
俺はヒラヒラと伊織に手を振りとりあえず笑顔を作った。
「伊織は今何歳なんだ?」
なるべく気さくに伊織に聞いてみる。
「……十二歳。小六……」
ブスッとした顔で俺の質問に答える伊織。
マジか…… 小学生かよ。それにしちゃちょっと大人びてんな。
「そっかぁ、六年生にしちゃ背、デカい方か?」
俺が見たまんまそう言うと、伊織は少し嬉しそうな顔をした。そっか、そういうこと言われるのが嬉しい年頃ね。
……めちゃくちゃわかりやすい。
まだまだ子どもらしい伊織が可愛く見えた。
「周って言ったっけ? 周はさ、竜太君の何なの? 竜太君と全くタイプ違うじゃん。本当に友達?…… 竜太君の事、脅したりイジメたりしてないだろうな?」
「………… 」
何だよそれ。伊織は竜太に似て可愛いけどやっぱり生意気。
「こら! 伊織! 目上の人にはちゃんと敬語! 周さんは僕よりひとつ先輩なんだよ? ちゃんと敬語、使えるよね?」
竜太がお兄さんらしく伊織を注意する。なんだか普段見ない顔の竜太がちょっと新鮮だった。
「ごめんなさい……」
竜太に怒られて、しおらしく謝ってシュンとしている伊織。少し口を尖らせて俯いてる様子も、本当に竜太によく似ていた。
見てたらなんだか可哀想になってきたな。
「……いいよ伊織。気にすんな」
思わず伊織にフォローしてやったら、今度は竜太に睨まれてしまった。
「なんだよ、竜太。睨むなよ」
「…… だって僕が叱ってるのに周さんがそんなこと言ったら僕の立場ないじゃないですか!」
こっちの竜太も少し口を尖らせて俯いた。
くっそ、ダブルで可愛い……
そんな事を考えながら二人を眺めていたら、甘い匂いがしてくることに気がついた。これはケーキの焼ける匂いかな?
「あ…… ちょっと待っててください」
竜太が小さくそう言うと、部屋から慌てて出て行った。
「なんだ?」
俺が伊織の方を向いて首を傾げていると、ツンとしながら説明してくれた。
「竜太君、朝から何か作ってたよ。多分お菓子かなにか…… せっかく来たのに全然遊んでくんねえんだもん」
相変わらず口を尖らせて可愛く拗ねてる。あ……そうは言っても可愛さは竜太には負けるけどな。
てか、お菓子? 竜太がお菓子作り? ちょっと意外でびっくりした。
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