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伊織と周さん

せっかく周さんと会えるのに、段取りよく出来なくて周さんが来る時間に間に合わなかった。 僕が玄関で出迎えたかったけどしょうがない。周さんの出迎えは諦めて、一人キッチンで作業を続けた。 母さんが玄関先で周さんと新年の挨拶をしているのが聞こえてくる。 ……周さんの声。早く周さんの姿が見たい。 僕はキッチンでやっと型抜きの段階まで進んだクッキー生地に向かい、星型の型抜きでポコンポコンと型を抜く。 なんでクッキーを作っているかというと…… 周さんは甘いものはあまり好きじゃない。でも甘さ控えめなものだったり、好みのスイーツなら喜んで食べるのを知っている。 誕生日に作るチーズケーキ。 どのくらいの甘さなら大丈夫かな? そう思って、チーズケーキのかわりにチーズクッキーを作ってみて食べさせて反応を見たかったんだ。 周さんが二階に上がっていく足音が聞こえ、僕は急いで型抜きをする。 「周くん来たわよ…… 母さんも手伝おうか?」 「んん、大丈夫。僕がやるから…… あと少しだし」 顔も上げずに夢中で型抜きを進めてると、隣に立ってた母さんがクスっと笑った。 「このあいだまで毎日のようにチーズケーキ作ってたのに、ここにきてなんで突然クッキーなの? チーズケーキならあなたもう完璧でしょ?」 「………… 」 なにか言いたげな母さんにちょっとドギマギしてしまう。 「いいの! 今日はクッキーなの!」 返事に困ってついツンケンした言い方をしてしまった。焦りもあったけど、何より恥ずかしかったから。 「…… あらあら、ごめんなさいね」 母さんはニコニコしながら肩を竦めた。 予熱で温まったオーブンに型抜きしたクッキーを入れる。そして汚した製菓道具を洗い終えると、急いで周さんの待つ二階の部屋へ向かった。 僕がドアを開ける前から部屋の中で伊織と周さんの声が聞こえてくる。 そうだ! 伊織がいたんだっけ…… クッキーの事で頭がいっぱいで、僕はすっかり忘れていた。部屋の中から聞こえてくる声がなにやら揉めているように聞こえ、慌ててドアを開けた。 赤い顔で興奮気味な伊織が周さんに怒鳴っている。僕に気がつくとすぐに伊織は静かになった。横に立つ周さんは、凄い笑顔で僕の名前を呼んでくれた。 久しぶりな周さん。今すぐに飛びついて抱きしめられたい。 でも、その前に何を揉めていたのか聞いてみた。 すごい剣幕で周さんに抱きつかれて怖かったと伊織が訴えてくる。それを聞いて「なんで?」と嫉妬心が湧き上がってしまった。伊織相手に何でこんな感情になっているんだと我ながら呆れてしまう。でも僕はまだ周さんに触れてもいないのに…… そんな風に思ってしまった。周さんは周さんで、誤魔化すように「スキンシップ」だなんて言ってるけど、そもそも何? 僕と伊織を間違えたってこと? 顔は似てるっていうのは認めるけど、体の大きさが全然違うじゃん! ニヤニヤして僕と伊織を見ている周さんにモヤっとしながら、取り敢えず周さんに対して生意気な口調で話す伊織を注意した。 嫉妬心からちょっとキツい言い方をしてしまったのは認めるけど、でも周さん、何でそんなに伊織に甘いんだよ…… 僕は面白くなくてイライラしてしまった。

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