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伊織の災難

一年に数回、盆と正月には竜太君と会える。 俺が親戚の中で一番大好きなのは竜太君だ。 かっこいいし、頭もいい。会えばいつも勉強を教えてくれる。口の悪い俺のことを褒めてくれるのは竜太君だけだった。 竜太君はどんな人にも優しい。絶対に人の悪口を言わない竜太君が俺は大好き。 今年は親の都合で二日間だけ竜太君の家に泊まれる事になった。 凄え嬉しい! 実は俺、竜太君に相談したい事があったんだ…… こんな事、恥ずかしくて誰にも言えない。でも竜太君なら揶揄わないでちゃんと相談に乗ってくれるはずだと思うから。 それなのに、竜太君の家に帰って来ても竜太君は朝から忙しそうにお菓子作りに没頭している。 「ちょっと待っててね……」 そう言ったっきり、ずっと俺はほったらかしだ。 ちぇっ…… 俺はつまらないから、持ってきた漫画を竜太君の部屋で読んで待つことにした。自分の部屋のようにベッドに上がり、寝そべってリラックスして漫画を読んでいた。 しばらくしたら、突然ガラの悪いデッカい男にのしかかられて圧死寸前…… なにこいつ? 凄えムカつく! 竜太君の友達? 先輩? みたいだけど、なんでこんな奴と竜太君が仲がいいのかわからない。部屋に戻った竜太君にも怒られるし、最悪だ。せっかく竜太君と話せると思ったのに何なのコイツ、邪魔なんだけど…… クッキーが焼けたみたいで、下の階から甘い匂いがしてくる。竜太君はそれに気がついて、慌てて部屋を出て行った。 キョトンとしてる周に、朝から竜太君がお菓子作りしてんだって教えてやってたら、ドカドカって凄い音がして、周も血相変えて部屋を出ていく。 俺がドアから階段を見たら、既に周も一番下まで降りていて竜太君を抱えてた。 「え? 嘘……」 竜太君、階段から落ちたんだ…… 周がおばさんに車を出してって言っている。周の言葉におばさんも慌ててバタバタと支度を始めた。 でも俺は何をしたらいいのかわからなくて、その場で立ち尽くしてしまった。 周に抱かれた竜太君が何か謝ってる…… 周も何か言ったかと思ったら、竜太君の額にキスをした。 「………… 」 周の表情はわからないけど、額にキスされた竜太君の顔が瞬時に優しくなるのがわかった。 あんな表情の竜太君……俺初めて見た。 周に抱っこされた竜太君とみんなで車に乗り込む。 俺……なんの役にも立ってない。 竜太君が階段から落ちたんだってわかってから、俺は怖くて動けなかった。 俺、男なのに……情けない。泣けてしまってしょうがなかった。 さっき見たけど竜太君の足、凄い腫れてた。そりゃ歩けないんだから痛いよな。 大丈夫かな?

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