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男の約束

病院の待合で周と二人で竜太君を待つ。 目に涙が溜まって溢れそうになってると、不意に周が指でそれを拭ってくれた。 「心配だよな? 大丈夫だ! 竜太は強いからな」 俺を慰めてくれてんのかな? でもそういう周も相当心配そうな顔してるし…… 「………… 」 「……あ!」 「ん? なんだ?」 ふとさっきの事を思い出してしまった。 「なぁ、さっきさ…… 竜太君のおデコにキスしてなかった?」 思わず聞いてしまったけど、聞かないほうがよかったかな…… 周はキョトンとして俺を見ている。 ああ、これは見てないふりをしてた方が良かったのかもしれないと後悔した。 「ああしたよ。竜太すげえ動揺してたしさ、好きな奴に触れられると落ち着くだろ?」 「………… 」 前言撤回。周は一瞬キョトンとしたもののサラッとそう言って「見られてたんだな」と照れ臭そうに笑った。でも俺には周の言ってる事がわかるようでよくわからなかった。 「好きな奴にって……男同士だよな?」 確かに周の言う通り、キスされた後の竜太君のあの表情を見たらそれは納得出来るんだけど、竜太君は男だよね? 友達同士でキスして落ち着くとかありえないから、きっとこれは「恋人同士」の事を言っているんだ。 「へ? そうだけど? 俺は竜太が好きだよ。男とか、女とか…… どうでもよくね?」 周が俺の目をジッと見つめて真顔で言った。 ……ドキッとした。 「もしかしてさ…… 竜太君と付き合ってんの?」 まさかと思って聞いてみたら、あっさりとイエスの答えが返ってきて驚いた。おまけに「おかしいか?」と周に聞かれた。 おかしい? いや、男同士でもお互いが好き合っていれば別にいいんじゃね? 周の視線に強い意志を感じ、威圧されたような気がした。 「おかしくない…… と思う」 疑問に思ったくせに、思わずそう答えてしまっていた。でも周の目は真っ直ぐで、子どもの俺なんかの考えはお見通しって感じで、なんだか落ち着かない。 「いいよ、別におかしいって思ったって。お前も本気で人を好きになればさ、わかるよ。誰がなんと言おうと好きなもんは好きなんだ! ってな」 そう言って周は笑った。 本気で人を好きになる…… 「ねえ、竜太君と周、どっちが告白したの? やっぱり周から言ったの? ……告白緊張した? どうだった?」 俺にも思うことがあって矢継ぎ早に聞いてしまった。そんな俺に少し戸惑いながらも、ちゃんと周は考えて答えてくれた。 「告白っていうか…… なんだろ? 一目惚れ? ん…… 実はよくわかんねぇんだよな。こいつの目、綺麗だな、とかもっと触れたい、誰にも触らせたくない、って色んな感情が湧いてきてさ、気づいたら '俺のもんになれ' って言ってたような気がする……」 は? 何それ凄え強引。 「そうだ! 竜太にそん時 変なのって笑われたな。でも今じゃ竜太も俺にメロメロだぞ」 ドヤ顔で話す周に呆気にとられる。要はフィーリングみたいなものかな? でも男相手にそういう感情が湧くものなのか? 周が俺をジッと見て、何かに気付いたようにハッとした。 「お前もしかして、好きな奴いんの?」 「………… 」 竜太君に相談に乗ってもらおうと思ってたんだけど…… 周と喋っていたら、周に聞いてもらいたくなってきた。 「……うん。でも、もうじき卒業だし…… 離れちゃうし……」 周は急に歯切れ悪く言う俺の頭に手を乗せ、ワシワシと雑に撫でた。 「そうだな、焦るよな。でもよ、後悔しねぇ? 何も言わないで卒業するの?」 「うん、後悔すると思う。けど、そいつってさ、幼稚園から一緒で幼馴染なんだよね。いつも喧嘩したりからかったり、女として……ていうより男みたいに接してきたから、お前何言ってんの? って笑われそうで怖いんだ……」 周が俺の背中を軽く叩いた。 「幼馴染なら、そいつはお前のいいところも悪いところも全部わかってんじゃん。お前さえ真剣に思いをぶつければちゃんと受け止めてもらえるって。結果はどうであれ、笑われる事なんか絶対にねぇと思うぞ。大丈夫だよ! 頑張れよ伊織」 笑いながらそう言う周を見て、元気が出た。 「ありがとう。周に話せてよかった。俺、頑張ってみる…… 」 お礼を言うと、周が俺をジロジロと見た。 「やっぱりさ、伊織って竜太とよく似てるよなぁ。お前もいい男だぞ。もっと自信持っていいと思う」 「凄えそれよく言われる。顔はそっくりなのに性格は真逆だなって……」 そう言うと周は「だな!」って言ってゲラゲラ笑った。 やっぱりちょっとムカつくこいつ。 とりあえず今話した事はお互い内緒に…… 俺と周は男同士の約束を交わした。

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