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クッキー試食

家に戻り、皆んなで取り敢えずリビングに集まる── 「周さんも伊織も、ごめんなさい。明日も初詣行きたかったのに…… 楽しい日を台無しにしちゃった。母さんも心配かけてごめん……」 ソファに座り、僕は申し訳ない気持ちが溢れ、そう言った。 キッチンで何かをやっていた母さんがお皿に僕の作ったクッキーを綺麗に並べて持ってきてくれた。 「ほら、竜太はそんなに気にしないの! 周くんも伊織も、竜太にごめんなさいなんて謝られても困るって。ね? クッキー焼けてたからみんなで食べましょう 」 母さんは沈んでる僕の気持ちを思ってか、明るく笑い飛ばしてくれた。 周さんも僕の隣に座って頷く。 「早く治るといいな…… 足、痛むか?」 「ううん、さっきよりは痛くなくなってきてるかも……」 この場に母さんと伊織がいなかったら、周さんに抱きついてめいいっぱい甘えられるのに…… なんて思っていたら、周さんがクッキーを手に取った。 「そうそう! これってさ、竜太が作ったの? 伊織から聞いたよ。凄えじゃん! 店で売ってるやつみたい」 嬉しそうにそう言うと、ひと口でパクッと食べてしまった。 ……ドキドキする。 「周さん? …… 味、どうですか?」 恐る恐る聞いてみると、少しモグモしてから僕の顔を見てフッと笑った、 「俺さ、あんま甘いのダメなんだけどこれちょうどいいな。美味いね! チーズの味がする! 今度また作ってよ 」 周さんが褒めてくれた。 よかった…… 「伊織もどう? 美味しいかな?」 さっきから無言でもぐもぐ食べている伊織にも聞いてみた。何か考え事かな? 「超美味しいよ。竜太君すごいね! いつの間にお菓子作りも出来るようになってんの? 俺にもまたお菓子作ってね 」 伊織もそう言って褒めてくれたから大丈夫だよね? よかった。これならチーズケーキも大丈夫そうだ。 母さんは少し離れてそんな僕らを笑顔で見ていた。 あ!そうだ! 「大変! 僕こんな足じゃバイト行けないや……」 明後日からまたシフトが入っていたのを思い出した。そしてお給料が予定していた額より減っちゃうな…… って思ったと同時に、周さんの誕生日にはお祝いしてあげる事が出来ないんだという事実を思い出し、更に気分が落ち込んでしまった。 落ち込んだまま、僕はバイトに出られないということを陽介さんに電話をした。 陽介さんも僕が骨折したと知ると、とっても驚いてそして心配してくれた。 本当に申し訳ない…… 「周との誕生日デートは後日また改めてやるといいよ。あんま気にすんなよ」 電話口で陽介さんはそんな僕を励ましてくれた。 「はい。ありがとうございます」 電話を切り、僕はまた周さんの方を見る。 伊織も母さんもそこにいるから、なんだか落ち着かない…… 周さんにギュッとしてもらいたいのにそれが出来ない。 「………… 」 「どうした? 竜太、痛む?」 僕の様子がおかしかったのか、周さんがまた心配してくれた。 「……僕、部屋行きます」 松葉杖を持ち、立ち上がるとゆっくりと歩いた。 この松葉杖にも早く慣れないと…… 「後で部屋に痛み止めのお薬持っていくわね」 母さんに言われ、頷いた。 周さんが後ろからフォローしてくれ、なんとか僕は二階に上がり部屋へ入る。伊織はついてこなかったから、やっと周さんと二人きりになれた。 「周さん。ギュッとしてください……」 僕はベッドに腰掛け、両手を周さんに向けて広げる。少し赤い顔をして周さんが僕の前に跪き、ふわっと僕を包んでくれた。 「竜太、怪我のことはほんと気にすんなよ? ちゃんと治療して、早く治そうな。俺、毎日病院にお見舞い行くからさ」 そう言って、僕の頬を両手で挟みチロッと舌を出して唇を重ねる。周さんの舌先に軽く吸い付きながら、今度は僕からキスをした。 ゆっくりと確かめ合うように舌を絡め、お互いを確認する。 少し会わなかっただけなのにね…… こんなにも愛おしい。 「やっと周さんとキス……できた」 そう言ってまた、僕は周さんに抱きついた。

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