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退院
痛みもだいぶなくなり、看護師さんに体を拭いてもらったり自由に動けるようになったり、かなり快適に過ごせるようになってきた。
リハビリも開始され、元々体力のない僕には何をやるにも体が重たいんだけど、リハビリをやる事でどんどん回復に向かってるんだと思うと楽しく頑張れた。
何より、本当に毎日みんながお見舞いに来てくれたのが嬉しかった。
靖史さんや圭さんまで来てくれて、もしかしたら僕よりも母さんの方が喜んでいたかもしれない。
いちいちみんなに「竜太のお友達?」 って嬉しそうに聞いてたもんな……
今日は僕の退院の日──
母さんと一緒に荷物をまとめる。
はじめに主治医が話していた通り、当初の予定より一日早い退院になった。
松葉杖をつき、橋元さんと小山君に挨拶をして部屋を出る。ナースセンターにも寄り、看護師さん達にもお礼を言った。
僕の松葉杖さばきがかなり上達したと言って、みんなに褒められた。父さんから貰ったお守りの黒君を自分の鞄につけ、母さんの運転する車で久しぶりに家に帰った。
僕は部屋に入り、まず最初に周さんにメールをいれた。
『無事に家に帰ってきました』
まだ学校だからと思ってメールにしたのだけど、やっぱり思った通りすぐに返信が来てちょっと笑ってしまった。まだ授業中だよね?
『学校終わったら竜太んち行くから』
僕が退院する時は「俺も一緒に!」ってまた煩かったけど、今日は平日。周さんにはちゃんと学校に行ってもらったんだ。
でも、学校終わったらすぐに来てくれると言ってもらえて凄く嬉しい。
早く会いたい……
周さんの誕生日。
当日にお祝いをする事が出来なかった。「おめでとう」は言うことが出来たけど……
退院できたし、松葉杖だけど自分で動く事ももうできる。今度のお休みは周さんに予定をあけておいてもらおう。
周さんが来たらそう話すんだ。
予定をあけてもらう事を言うだけなのに、なんだか緊張してしまう。
可笑しいな。
帰宅後母さんは用事があるとかで出かけていった。
母さんが出かけていったのと入れ替わりくらいで周さんが家に来た。
「竜太! 退院おめでとう!」
そう言って、周さんは後ろに隠してた花束を僕に差し出した。
……嘘でしょ?
「周さん?…… これ、僕に?」
驚いて周さんに聞くと「竜太以外に誰にあげんだよ!」と怒られてしまった。まさか花なんてもらえるとは思わなかったから、驚きの方が大きかった。
可愛い……
とくに大きな花束ではなく、花嫁さんが持っているような可愛らしいブーケ。カラフルでとっても綺麗だった。見てるだけで元気が出る。
そしてお花屋さんで周さんが花を選んでいる姿を想像して、胸がキュンとしてしまった。
「お花なんて…… 嬉しすぎる。 周さんありがとうございます」
思わずそう呟くと、周さんはそのまま僕をフワッと抱きしめてくれた。
僕の頭に顔を埋めた周さんが、優しい声で「おかえり… 」と囁く。
僕はそんな周さんの胸の中で「ただいま 」と返事をした。
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