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いざ!
周さんとの約束の朝──
僕は早起きをしてチーズケーキを作る準備を始める。
正直、松葉杖がないとまだ歩けない状態で不安だけど、ケーキ作りなら椅子に座ってでも出来るからやってみることにしたんだ。
考えていたお弁当は座ったままだと作れないし、立ちっぱなしで色々作るのはまだ難しいから今回は諦めることにした。
全神経を集中してチーズケーキつくりを開始する。
母さんが出てきて手伝うかと聞かれたけど、だめだめ……
「大丈夫! 僕が最後まで作りたいから…… ありがとう。頑張るね」
キッチンにキャスター付きの椅子を用意して、そこに座って作業をした。材料を混ぜ合わせ、キャスターを駆使して道具をとったりオーブンの準備をしたり…… 意外にも以前のようにスムーズに作れて、後は焼くだけ。予熱しておいたオーブンに作った生地を入れ、出来上がるまでに後片付けも済ませてしまおう。
びっくりするほどスムーズに完璧な流れ。僕はご機嫌で後片付けをしていたら、母さんが来て「片付けはやっておくから支度しちゃえば?」と言ってくれた。そこはお願いしちゃおうかな? と、僕はお言葉に甘えて部屋に戻った。
一番のお気に入りの服に着替え、鞄に周さんへのプレゼントを大事に入れる。
用意しておいたプレゼントは、ニットのキャスケット。
周さん、お洒落だから…… 好みもあるしどうかな? って思ったんだけど、こういう小物なら幾つあってもいいだろうし、見てたらとても似合いそうだったから買ってしまった。
気に入ってもらえるといいな……
夕食を一緒にする素敵なお店の予約も完璧。周さんに連れて行ってもらったイタリアンのお店もよかったんだけど、ちょっと距離があるから今の僕じゃ歩くのが厳しい。それを踏まえて色々と調べたら、周さんの家の近くにお洒落な中華料理のお店を見つけた。迷わずそこに決め、すぐに電話で予約を入れたんだ。初めてのことだから緊張したけど、これで周さんのお祝いの準備はバッチリだ。
……周さん、喜んでくれるかな。緊張する。
出掛ける支度をしていたら、階下から甘い匂いがしてきて電子レンジが完成の音を鳴らす。僕は足を踏み外さないよう注意しながら階段を降りた。
電子レンジの前で母さんが覗き込んでる。
「なにやってんの?」
僕が聞くと、ちゃんと出来上がってるか心配だったと言って笑った。
「もう何十回と作ってるんだから、大丈夫だよ……ほら 」
そうは言っても少しドキドキしながら電子レンジを開き、中から美味しそうなチーズケーキを取り出した。
「ほら! 見て! 大成功だよ!……よかったぁ」
完成したチーズケーキを母さんに箱にしまってもらい、僕は洗面所で髪の毛のセットをする。
そんな僕を見て母さんはクスクスと笑ってる。
「竜太ってば、どんだけ気合入ってるの……」
うるさいな。
今日は大事な日なんだ。今度は僕が周さんをリードして、めいいっぱい幸せな気分にしてあげるんだ。
支度を済ませると、母さんが車を出してくれた。
ケーキを持って松葉杖はさすがに大変だろうからと言って、周さんの家まで送ってくれた。僕はそこまでは考えていなかったから助かった。
「母さん、ありがとうね」
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