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不安と安心 康介の心

修斗さんと付き合うようになってから結構経つ。でも今だに俺、信じられない部分が多いんだよね。だってあの修斗さんだよ? 俺の恋人? 本当に? ってなる…… 一回竜に相談したら「ばかじゃないの?」って一喝された。 そんなこと言ったって不安になるんだよ。 修斗さんは誰が見てもかっこいいし、男にも女にも人気がある。それでいて誰にでも凄く優しいから、絶対に勘違いしてる奴もいるよな……って。そしたらさ、あれ? 勘違い野郎は俺じゃね? って思うわけよ。 いや! バカバカしい! 勘違いなんかじゃない。修斗さんはいっぱい俺の事好きだって言ってくれてるんだ。 頑張れ俺! 愛されてるぞ、大丈夫だぞ! でも…… 珍しく一年の教室に来てくれて、お昼を一緒に過ごせるのが嬉しかったのにさ。さっきから修斗さん、他の奴らと喋ってばっか。 竜を見るとなんだか周さんと二人で何かを喋ってるわけじゃないのに、いい雰囲気で……凄え羨ましかった。 修斗さんは全然俺の側に来てくれないし、とっくに昼飯食い終わっちゃったじゃん。 もういいや…… 焼きもちやら妬みやら、なんか俺、イジイジと嫌な奴になりそうだからちょっと頭冷やそう……そう思って、少し寒いけど一人で屋上に来てしまった。 誰もいない静かな屋上── もう少しで昼休みも終わる。 修斗さんが前に教えてくれた秘密の場所。壁の裏に回り、ペタンと座り膝を抱える。 そういえば、来週は修斗さん修学旅行でいないんだっけ。 ……寂しいな。 修学旅行に行く前にいっぱい遊んでもらお…… 膝を抱えて俯いていると、屋上に人の気配がした。見つかると面倒くさいから黙っていると、その気配がどんどん近づいてきて「康介見っけ!」と明るい声が降ってきた。 フワッと俺に何かが被さる。見るとあったかいボアのついたベンチコートが俺に被さってて、隣には修斗さんが笑顔で座っていた。 二人で一緒にベンチコートを被ってる。 「……何?」 修斗さん、可愛いなぁ…って思いながらも全然素直になれずに、ぶっきらぼうに言ってしまった。 「なに? じゃないでしょ? 急にいなくなっちゃうんだもん」 「………… 」 俺の顔色を伺うように修斗さんはぐっと顔を覗き込んでくる。 「てかさ、このコート……こんなの修斗さん持ってましたっけ? あれ? ……サッカー部って」 「うん、サッカー部の奴の持ってきた 。 屋上寒いじゃん?」 ニカっと笑って俺に擦り寄る修斗さん。 全くこの人は…… 「急に教室出てってすみません」 やっぱり俺はこの笑顔には弱いんだ。 「すみません。じゃないよ。なんで? 俺が悪いんでしょ? 放ったらかしててごめんね、康介。許して」 修斗さんが俺の顔を見つめて申し訳なさそうに謝る。 「……はい」 俺が返事をすると、修斗さんは嬉しそうに俺の肩に頭をくっ付けた。 俺、本当ダメだな…… 自信喪失したり復活したり。いちいち面倒くさい奴だなって思うよ。 「康介……どうした?」 修斗さんが俺の肩に顎を乗せて、頬にチュッチュしながら聞いてくる。 「ふふっ……なんでもないです」 なに俺不安になってんだろうな……修斗さんは俺の事が大好きだって、こんなにわかりやすいのに。 俺は修斗さんの頭を引き寄せ唇を重ねる。 チュ…と軽く舌を絡め、修斗さんを見ると「康介、好きだよ……」と優しい笑顔で見つめられた。 「俺もです」 そう言って、二人でベンチコートの中に潜り込んだまま、しばらく寒い屋上で過ごした。

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