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電話

放課後僕と康介は一旦家に帰り、泊まる準備をしてから志音の家に向かう。 夕飯は簡単に志音が作ってくれると言っていた。圭さんといい志音といい、すごいなって思う。僕だって周さんのために少し練習したけど、定番の物しかまだ作れない。 それを志音に言ったら、自分も同じだと笑われてしまった。 康介に迎えに来てもらって、二人で志音の家に向かう。だいぶ慣れたとはいえ、松葉杖だから少し歩くのが遅くなってしまい申し訳なく思う。 「ごめんね康介。歩くのが遅くて…… 」 「んにゃ、そんな事ねぇよ? だいぶ松葉杖上手く扱えるようになってきたよな」 ……ありがとう康介。 途中でお菓子を買うために少し寄り道。立ち読みを始めてしまった康介を引っ張り、急いで志音の家に向かった。 マンションに到着しインターホンを鳴らすと、弾んだ声の志音が迎えてくれた。 「うわぁ、志音の家綺麗だな……」 部屋に入るなり康介が呟く。キョロキョロしながらリビングに入りソファに座った。そしてテーブルの下にファッション誌を見つけ、ペラペラと捲り始める康介がため息を吐く。 「やっぱり志音ってかっこいいよな。なんかズルい…… 」 コーヒーを持ってきた志音が笑った。 「康介君だってかっこいいじゃんか」 「うわっ! イヤミだー! ムカつく!」 「………… 」 最近の志音は転校してきたばかりの頃と比べてだいぶイメージが変わった。凄く大人びてて、カッコよくて人気があるけど、あまり踏み込んで関われないような雰囲気を持っていた。 でも今は全くそんな風に感じない。僕らと同じ高校生らしくて人懐こい。 「……? なに? 竜太君」 ジッと見てたら志音に気づかれちゃった。 「いや、志音変わったなぁって思って」 僕の言葉に康介も頷く。 「俺なんか前に志音にさ…… 」 「あ! 康介君、あの時はほんとゴメンって!」 慌てて志音は康介の口を塞いだ。 「……?」 「俺、夕飯の支度してくるね。何か飲んでる? ビール冷えてるし、ワインもあるよ」 エプロンをしながら志音が言ってくれたけど、お酒はダメだよ。 康介はちゃっかりビールをもらって、もう飲み始めてしまった。僕はカウンターに座り、志音の作業を眺めた。 今頃周さんは何してるんだろう? この時間ならもう宿泊先に到着していて夕飯までの時間を潰してるのかな? お風呂に入ってるかな? とりあえず、メールなら送っても大丈夫だよね。 『今日は康介と一緒に志音の家に泊まります』 簡単にメッセージを入れ、送信を押した瞬間にすぐ僕の携帯が着信を伝える。 え? いきなり着信? しかも周さんからだ。 志音が僕を見て笑ってる。 「周さんでしょ? 早く出てあげなよ」 僕は慌てて電話に出た。 「もしも……」 『 おい! なんで志音ちに泊まるんだよ!』 周さんの剣幕に驚いて一瞬携帯を耳から離してしまった。 「え……なんでって、周さん達いなくて寂しいから…… 」 『なんだよ、俺だって寂しいぞ! なんで志音ちなんだよ! あいつお前の事好きなんじゃなかった?』 「……そんな事ないですよ。大丈夫ですって。それより周さん電話してて大丈夫なんですか?」 『うん、今外に出てる。修斗と同室だから先生来てもなんとかしてくれんだろ』 「もう、修斗さんに迷惑かかるから切りますよ? 早く部屋に戻ってくださいね」 『おい! まだ切るなよ。竜太、愛してるよ』 「……… 」 チラッと志音を見ると、鍋に向かって黙々と中身を混ぜてる。 『聞いてる? 竜太? ねぇねぇ、竜太も俺の事好きって言ってよ』 「……周さん、飲んでます?」 『飲んでねえよ。なあ竜太〜、寂しいから愛してるって言ってよ』 このテンション、お酒が入ってるようにしか思えない。志音の前で「好き」なんて恥ずかしくて言えないのに、周さんたらしつこい。 「周さん……大好きです」 志音に聞かれないように、なるべく早口で小さな声で好きと伝える。 『うん! 俺もだ! 竜太また明日な。おやすみ』 「……おやすみなさい」 電話を切ると、いつの間にか隣に座ってた康介と目の前の志音がニヤニヤして僕を見ていた。 「やっぱり竜太君は素直で可愛いよね」 「好きです……なんて恥ずかしくて人前で言えねえよ」 「ちょっと! うるさいな! 言わされたの! もう! 僕だって恥ずかしいし…… 」 志音の作ってくれたビーフシチューとサラダをテーブルに運ぶ。 夕食を食べながら、しばらくの間僕は二人に揶揄われてしまった。

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