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志音の告白
志音の作ってくれたビーフシチューが凄く美味しい。康介と絶賛しながらバクバク食べた。
「あのさぁ、さっきキッチンで気づいちゃったんだけど……色違いのペアのマグカップ。彼女? 彼氏? のカップなの?」
食べながら康介が志音に聞いた。僕もちょっと気になっていた。マグカップもそうだけど、さっきトイレに立った時も洗面所にあった歯ブラシが二人分置いてあるのに気が付いて、志音はこういうのは隠さないんだな……って思っていた。
「……うん、彼氏のカップだよ」
少し恥ずかしそうに志音が答える。きっと「彼氏」というのは高坂先生のことだよね。
「へぇー! どんな人なの? 同じモデル仲間とか?」
何も知らないのか、康介が志音に色々と聞き始める。でも修斗さんは志音の相手は高坂先生だってわかってたみたいだけど……康介は気づいてないんだな。
「違うよ……みんな知ってる人だし」
「え? マジか? 知ってるって同じ学校? 同級生? なんだよいつの間に」
志音がチラッと僕を見た。
「竜太君は……多分わかってると思うけど」
「うん、気になってたけど、志音が言ってくれるまで待ってた」
志音が恥ずかしそうに僕と康介を交互に見る。康介だけよくわからないといった顔をして、きょとんとしてるのが少し可笑しかった。
「康介、わからない? きっと修斗さんもわかってると思うよ…… 」
「えー? 知らないよ。なんだよ俺だけ…… 」
志音と僕は顔を見合わせクスクス笑った。
「あ! 志音の彼も、今修学旅行だよね?」
僕が言うと、そうなんだよ……と頷く。高坂先生も保健医として一緒に修学旅行に行っている。学校には代理の保健医。
……そっか。志音も高坂先生がいなくて寂しかったんだね。
「え? 二年の先輩? 俺、修斗さんと周さんくらいしか知らねぇよ」
もう康介ひとり謎解き状態。
「今修学旅行に行ってて、康介も知ってる人……いるじゃん、もうひとり」
康介が首を捻る。
「えー? わっかんねえ。俺先輩のことあんま知らないからなぁ…… 」
「康介君。俺、先輩だなんて言ってないよ……」
あまりに気付かない康介に痺れを切らし志音が大ヒントを与えた。康介はそれでもわからないらしく、しばらく唸っていたけど、やっと閃いたのか大きな声をあげた。
「え! マジか? 大丈夫なの? あの人結構な遊び人だって噂じゃん!」
康介のいきなりの失礼発言にびっくりする。
「ちょっと! 康介ってば!」
「あはは……いいよ、その通り。でも噂だよね? 大丈夫だよ」
康介が小さく「ゴメン」と志音に謝る。
「……先生ね、ああ見えて凄くウブで可愛い人なんだ」
「………… 」
凄く意外。
康介も目を丸くしてぽかんとしてる。
「俺も先生もさ、恋愛初心者同士だから……」
「………… 」
どの顔が言ってんだ? と小さな声で康介が僕に言った。
「恋愛初心者って百戦錬磨の間違いじゃね?」
驚く康介がそう言うと、志音は笑った。
でも志音の言いたいこと、少しわかる気がする。
きっと僕と同じで、少し人との関わりに難ありだったんだろうな。
「俺、最初は竜太君に一目惚れしたけど……初めて失恋して、先生に自分のこととか色々聞いてもらってるうちに気づいたら好きになってた。俺、先生の事好きになれて、ほんとよかった……」
まるで独り言のように静かにそう言う志音。でもとってもいい顔をしている志音を見て、僕まで幸せな気持ちになった。
「よかったね……志音」
僕がそう言うと、嬉しそうに志音は頷いた。
「ずっとさ、誰かに聞いてもらいたかったんだ…… あ、でもごめん。一応さ、先生と生徒っていう立場だから内緒にしてもらえるとありがたいな」
もちろんだよ。
康介も横で力強く頷いている。
僕らは寝るまで、志音と高坂先生の馴れ初め話から三人の恋愛話で盛り上がった。
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