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監視役
「もうさ、先生方も宴会始めててさ、僕付き合ってらんないのよ……おじさん達の愚痴なんて聞いてても面白くないでしょ?」
高坂はそう言いながらも楽しそうに笑った。
「それにさ、橘と谷中は高坂君に任せた! なんてまた調子のいいこと言ってんの。君たち入学した時から僕はなぜだか君たちの担当なんだよね」
確かに高坂の言う通りだ。入学早々俺らは先生達には目をつけられ、結局部活にはならなかったけど、軽音部作るって言ってた時には高坂が顧問として色々と動いてくれた。
保健室に入り浸ってたからな……俺ら。
「先生酔ってる? 大丈夫?」
修斗が高坂に聞くと、ふふふと笑って首を振る。
「飲んでるけど、別に酔ってないよ。君たちのお酒僕にもわけてよ」
そう言って徐に冷蔵庫をあけて俺のビールを一本取り出した。
俺と修斗は高坂のいい加減な一面を知ってるから、こんな態度の高坂を違和感なく受け入れてるけど……
塚田は信じられないといった顔で黙りこくって高坂を見つめていた。
「あれ?……君は塚田くんだよね? ごめんね、このビール君のかな?」
グビッとひと口飲みながら、高坂は塚田に聞いた。
「あ……はい、あっ、いや……俺の……ですけど… 」
「ちょっと、塚っちゃんしどろもどろだよ」
修斗が俺の横でケラケラ笑う。
「塚田くん……他の先生にこのことバラしたら僕もこれ、先生にチクるからね」
高坂が真面目な顔をして言うもんだから、修斗は爆笑、塚田も気が抜けたのかヘラヘラと笑った。
「お前、タダで飲めると思うなよ。俺らこれ持ってくんの大変だったんだからな。重いし……明日ちゃんと返せよ?」
俺が言うと「はいはい」と適当な返事をして高坂は肩を竦めた。
しばらく喋っていると、高坂の雰囲気に慣れてきた塚田が愚痴り始めた。
「……よりにもよって、この二人と同室だなんて大変っすよ! 問題児二人。俺可哀想……」
高坂はそんな塚田に優しく言った。
「問題を少なくするために、先生方はこの二人を敢えてくっ付けてるんだよ。修斗くんがいい具合に橘のブレーキかけてるし、逆もあるのよ? 気付かなかった?」
「へぇそうなんだ……って、ブレーキかかってる? 言うこと聞かないし話聞かないしマイペースだし! 単品だともっと酷いのかよ? 最悪だなお前ら…… 」
「………… 」
すげえ言われようだな俺ら。
「でも先生も大変だよね? たかだか保健医なのに修学旅行まで駆り出されちゃってさ……」
修斗と俺はベッドに腰掛け、テーブルの椅子に高坂と塚田が座り、結局 高坂も一緒に四人でお喋りをしている。
「そうなんだよ。しかもさ、問題児の監視役ね…… 」
「可哀想なせんせ。今頃愛しい恋人も寂しがってるんじゃないの?」
修斗が高坂を揶揄った。
「いや、恋人なんていないから」
「あれぇ? そんな事言っちゃっていいの? 相手の子いじけちゃうよ」
高坂はジッと修斗を見つめ、笑った。
「まったく修斗くんは……いないってのは嘘だけど言う必要もないでしょ? そういう事は秘密にしてるの。僕は」
そう言って高坂は修斗から目を逸らした。
「ご馳走様。 明日の朝食の時間はちゃんとわかってる? あんまし夜更かししないで早く寝ろよ…」
そう言って残りのビールを飲み干して、高坂は部屋から出て行った。
「せんせ、照れちゃって可愛かったね 」
修斗が笑ってるけど、全然照れてるようには見えなかったけどな。塚田もそう思ったらしく、俺の方を見て首を傾げた。
「てかさ、なんだよ高坂先生もお前らも恋人恋人って……俺だけかよ、相手いねぇの」
気づいたら真っ赤な顔で塚田が拗ねてる。
「塚っちゃんって、もしかして酒弱い?」
フンッて不貞腐れた塚田がベッドにボスンと横になった。
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