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大切な思い出

あの時俺は一人で園庭で遊んでた。 遊んでた……というより、園庭の隅の木の陰で雑草をむしってたんだ。 すると、一羽の雀が地面にちょこんと座ってるのに気がついた。 多分怪我でもしてたんだろうな。 その場から動こうとしない雀をジッと見て、なんだか俺は嬉しかったんだ。 怪我してるのかも、とかは微塵も思わず、ただただ小さくて可愛いその生き物を俺はしばらく見つめてた。 「おーい、なにしてんだ?」 後ろから俺に気づいた周が走ってくる。 「なんか鳥さんが座ってるの……」 俺が周にそう言うと、周は慌て始めた。 「こいつケガしてっかも! 先生に言ってこなきゃ!」 園舎に戻ろうとした周を俺は慌てて掴み、「だめだよ、ぼくが鳥さん見てるから」と、そう言って周を止めた。 周は、ほっといたら死んじゃうかも……とか何かブツブツ言ってたけど、自分より小さく愛らしい姿に魅了され、独り占めしたい衝動に駆られてた俺は周の話なんか無視していた。 しばらく眺めていた後に、寒いといけないから……って、俺はその雀に葉っぱをかぶせて、周と二人で園舎に戻った。 その後の外遊びの時間に同じ場所に戻るとさっきの雀はもういなかった。 自力でどこかに行ってしまったのか…… 野良猫か何かに襲われてしまったのか? 俺はあの雀がいなくなってしまったショックと、さっき周が言っていた ケガしてるかも、ほっといたら死んじゃうかも、という言葉を思い出して涙が溢れてしまった。 「鳥さん……ゔぅっ…鳥さんいない…鳥さん……どっか行っちゃった?……鳥さん…うっ……死んじゃった?」 涙がどんどん溢れて、俺は泣きじゃくってしまった。 周が先生に言わなきゃって言ってたのに…… 自分のわがままのせいで、死なせてしまったかもしれない。 そう思ったら怖くなって体が震えてしまった。 「ぼくのせいで…… 」 その時、ふっと体が何かに包まれた。 驚いて顔を上げると、目に涙をためた周が俺を抱きしめてくれていた。 「泣いちゃだめだよ、鳥……たぶん自分でどっかにいったんだ。おまえは悪くねぇよ。だいじょーぶだよ!」 そう言って小さい手で俺の背中をポンポン叩き、必死になって俺を慰めてくれてる。 俺の事を責めるわけでもなく、ひたすらに自分も泣きそうになりながらも慰めてくれる周が凄くカッコよく見えた。 「ゔぅっ……うぇ…ん、ごめんなさい……」 周に抱きしめられたまま泣いていると、顔を上げられ頬にチュッとキスをされた。 ?? 泣きそうになってる周が赤い顔して俺を見ている。 「おまえ……もう泣くなよ。おまえ泣いてると俺もなんかヤダ!」 そう言ってまた俺の背中をポンポンする。 その後、俺が泣きじゃくってるのが周のせいだと勘違いした先生たちが慌てて駆けつけてきて周を叱った。 でも俺はちゃんと事情を説明する事が出来た。 そして、こういう時はちゃんと大人に話すように!って周とふたりで少し怒られた。 少し前の俺だったらきっと泣いてるだけで何も言えなかっただろうな。 ちゃんと自分の思いを話せるようになったのも周のおかげだ…… それからも周は事あるごとに俺を気にかけてくれ、俺は他の子とも遊べるようになった。 夏休みが終わったあたりから、また体調を崩して休みがちになってしまったけど、ちゃんと卒園式には出席出来た。 卒園なんかしないでずっとこのままがいいや……なんて思ったっけ。 小学校入学に合わせて、肩まであった長い髪も男らしく短く切った。 きっとあの時、周は俺の事を女の子だと思ってたんだろうな。 周の記憶からはこの幼稚園での出来事は消えてしまってるけど、俺はよく覚えてる。 初めて出来た俺の友達。 いつも助けてくれるかっこいい友達。 俺が変わるきっかけをくれた大事な友達── そう、それが俺の周との最初の出会い。 周と出会えたから、少しずつ俺は積極的になれたんだ。 俺の大切な思い出。

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