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周の初恋
「小学校の入学式の後さ、病気で入院してたんだよね。だから俺だけ出遅れちゃったんだけど、周が席近かったからすぐ仲良くしてくれて……それで今に至るんだよ」
修斗は笑ってそう言うと、残りのビールを飲み干した。
そう……
いないと思ってた席にいきなり修斗が現れてさ、なんだか凄く大人しくて暗そうな奴だったんだよな。
「一年の時の修斗って、今と真逆だったよな……なんで??」
俺は修斗に聞いてみた。
「真逆って?」
塚田が不思議な顔をする。
「塚っちゃん俺ね、大人しくて病弱だったの。チビでガリガリ……性格も人見知りで暗かったな」
塚田は修斗の言葉にポカンとしてる。そして少し間があき、爆笑した。
「修斗が人見知りで根暗? は? しかも病弱? ありえねぇ! 笑ける!」
「だから! 周のおかげで今の俺があるんだよ。俺が変わるきっかけが周だったから……」
塚田と笑いながら修斗はそう言った。
……そうなんだ
俺、そんな変わるきっかけになるようなことしたか? 心当たりが全くねえ。
「でもさぁ、そんなに修斗が大人しかったって言うならさ、周と正反対なのによく仲良くなったよな」
塚田が不思議そうにそう言った。
確かに、何でだ?
「あ……」
ふと思い出した事があって、思わず声を上げてしまった。
二人が俺を振り返る。
「何? 周どうした?」
「………… 」
フワッと浮かんだ記憶の断片。胸がキュッとして懐かしくなった。
「いやさぁ、性格が真逆で仲良くなりそうもなかったのに、何でかなぁって考えててさ……当時 確か俺の方が修斗を構ってたんだよな? そうなんだよ。その時の修斗って、俺が幼稚園の時に気になってた奴にすげえ似てたんだ……」
修斗が「へえ」と言ってまじまじと俺を見る。
「それ初耳。気になってたってどんな子? その子、そんなに俺に似てたの?」
少し楽しげに修斗が突っ込んで聞いてきた。
改めて聞かれても、記憶が曖昧ではっきりしない。
「ん、記憶が薄っすらなんだけど……俺より全然ちっさかったから年下かな? 可愛い女の子……」
修斗は何故だかクスクスと笑っている。
「可愛い女の子? それってさぁ、周……初恋なんじゃね? そうだろ! 違う?」
塚田がからかうようにそう言った。
「うん、なんかホント一瞬の記憶なんだよな……一欠片の記憶しかない……みたいな? 今初めて思い出したくらいだから。なんだろう? 本当にその子が実在してたのかさえ怪しい感じだ……」
修斗は黙って俺を見ている。
「ああ……そうだ。うん……俺、その子の悲しい顔見たくないって、なんか守ってやんなきゃ! って凄え思ってたような気がする」
そうだ……初めて「俺が守ってやんなきゃ」って思ったんだ。
「うん、そうだな。多分そいつが俺の初恋だな」
あやふやでも幼い頃のこんな記憶、思い出せてよかった。初恋なんて可愛い時もあったんだな。
「なんかいいなぁ、周も初恋とか言っちゃってさ、守ってやんなきゃ! なんてチビすけの頃から男前だなおい」
塚田が笑う。
「周はいつでも男前だよ」
そう言って修斗もなんだか嬉しそうに笑った。
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