369 / 432
甘いものリサーチ
「周さんは食べないんですか?」
僕らは公園の中の移動ドーナツ屋で注文をする。
「俺はいい……甘いのそんな好きじゃねぇし。あ、竜太は気にせず食えよ」
「………… 」
僕はバナナ味のとチョコチップの入ったドーナツと紅茶、周さんはコーヒーを注文して近くのテーブルに座った。
……どうしようかな。
今のタイミングなら自然だよね? 気付かれないよね。 周さん、ちょっと鈍感だし。
僕はどうしても確認しておきたいことがあって、さり気なく周さんに聞いてみた。
「ねぇ、周さん。周さんって甘いのあんまり好きじゃないですよね? ……えっと例えば、チョコレートなんかも嫌いですか?」
うん、大丈夫…… 不自然じゃない。
「チョコレート?……あぁ、俺チョコレートは好きだぞ。甘いのじゃなくて苦めのやつあるじゃん? ビターチョコって言うのかな? 沢山は食わねえけどコーヒーと一緒に食ったりするし、あと酒入ってるやつとかもいいな。ああいう甘いのは大丈夫」
「へえ……」
そっか! よかった。
周さんはチョコレートは大丈夫なんだ。
ほら、もうじきバレンタインデーでしょ?
今更だけど「好き」って気持ちを伝えたくて……
こういうイベントに乗っかって、僕も周さんにチョコレートをあげたかったんだ。
でも周さんは甘いものは嫌いだって言うから、チョコはどうかな?って思ってた。
でも聞いてみてよかった。これで心配しないで周さんにチョコレートを贈ることができる。
「周さん、甘いのも大丈夫なのとダメなのがあるんですね。僕の作ったチーズケーキも大丈夫でしたよね。あ、圭さんの抹茶のパウンドケーキとかも……」
そう、周さんの「甘い」という物の基準がよくわからない。
「ああ、圭さんのケーキはちょうどいいんだよな。甘すぎず俺の好み! てか、陽介さんと俺の好みがきっと同じなんだろうな。俺ね、生クリームとかのケーキはダメ。チョコクリームのケーキもヤダ。チョコはチョコだけでいいんだよ。スポンジとかいらねえし、クリームも腹もたれそう……パンケーキとかドーナツもそんな感じがするから苦手。あとな……」
なんだか、スイーツはほとんど苦手って言ってる様なものだ。まだまだ苦手なものが出てきそうで終わらなさそうだったから、僕は周さんの話を遮った。
「じゃぁ、大丈夫なスイーツって何ですか?」
初めからこう聞いた方が早かったかも。
「ん? そりゃ竜太が作ったチーズケーキとチーズクッキー、圭さんの作ったスイーツ全部にビターチョコ ……あとは、伊達巻きと茶碗蒸し」
伊達巻きと茶碗蒸しはスイーツなの? そういえば周さん、卵好きだよね。
圭さんの作ったスイーツ全部……ってのがちょっと気に入らないけど、今度また圭さんにスイーツ作りを教えてもらおう。
でも、そっか……
バレンタインのチョコは手作りしようと思ってたけど、お酒の入ったやつが好きだって言ってるし、僕にはそんなのは作れないから、お洒落なのを買ってもいいよね。
今度康介に付き合ってもらって買いに行こう。
また楽しみが増えた。
どんなチョコにするか選んで、プレゼントも付けちゃおう。
周さんと甘い物話をしていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
周さんは面白くない顔をしている。
振り返ると、そこには康介と修斗さんが立っていた。
「またデート?……なんかいいね。仲良しさんが滲み出てる」
仲良しさんって…
「修斗さんと康介も仲良しさんじゃないですか」
僕が言うと、修斗さんが「そうだよ〜」と笑って周さんの隣に座った。
康介も僕の隣に座る。
「あれ? 竜太君いつもと雰囲気違う! どうしちゃったの? 今日は一段とかっこいいね!」
修斗さんがオーバーなくらいに僕のことを褒めてくれた。
ちょっと恥ずかしい。
「いや……今日は周さんとデートだから、少し身嗜みを整えただけです。あ……恥ずかしいからあまり見ないでください」
もう……ほんと恥ずかしい。
「ねえねえこれからどうするの? 一緒に遊ぼうよ! 俺らこれからカラオケ行こうと思ってたんだよね。どう?」
修斗さんが楽しそうに誘ってくる。
カラオケ……
周さんの歌、聞きたいな。
僕が周さんの顔を見てると、軽くため息を吐き頷いた。
「とりあえず竜太がドーナツ食い終わるのを待てよ」
周さんがそう言うと、修斗さんは「俺も食う!」と言って注文しに走って行った。
ともだちにシェアしよう!