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周と修斗の内緒事
最近は周と一緒に康介達一年生の教室で昼休みを過ごしていたんだけど、今日は自分達の教室にいる。
周と二人で机を挟んで座り、昼飯中。
なんで一年の教室に行かずに周と二人でいるのかというと、康介達にはあまり聞かれたくない話をするから……
「今年もやるんだよな……あれ。やっぱり兄さん達主催なんだろ? やだなぁ」
兄さん達というのは、よく俺らと一緒にライブをするバンドの人達。
親しみを込めてボーカルの人を俺たちは「兄さん」 と呼んでいる。
……てか、俺は兄さんの名前を今だに知らない。
周もムスッとしながら頷いた。
「去年はさ、客が女ばっかで終わってからもなかなか帰んねえで面倒だったんだよな。俺もあんま気が乗らねえなぁ…… 」
昨日のスタジオ練習の時、 今年も兄さん達主催のバレンタインライブに参加する事になった事を圭さんに聞かされた。
圭さんもあんまり乗り気じゃなかったな。
去年はイベントだから楽しそうって思ってたけど、蓋を開けてみたら女のファンばっかでチョコやらプレゼントの山。
出待ちされたりつけ回されたり……
普段だって客も一緒に打ち上げ行ったりすることもある。でもこのバレンタインのイベントは毛色が違って居心地が悪い。
兄さん達はそれが楽しいんだってはしゃいでたけど、何が楽しいんだか俺にはわからなかった。
「……どうする? 竜太君にはライブのこと話した?」
「話すわけねぇだろ。言ったらライブ来るって言うだろ? あんなの見せたくねえよ…… 」
ほんとにそうだ……
「どうしよっか。俺も康介に言いたくないんだよね。てか康介か竜太君、どちらかにバレたら絶対二人に共に伝わっちゃうよね」
それに厄介なのはしっかりとバレンタインデー当日にライブなんだ。この日はどうしたって恋人同士で過ごしたいって思っちまうだろ? なんて言って誤魔化したらいい?
あ……
周はどうすんのかな?
「ねぇ、周はバレンタインどうすんの? 竜太君に何かするの? チョコあげるとか」
気になったから聞いてみた。
すると周はキョトンとして首を傾げた。
「へ? なにが? なんもしねぇよ」
何言ってんだこいつって顔して言い切った。
へぇ…
何もしないんだ。
「俺は康介にチョコでもあげようと思ってたけど……周はあげないんだぁ、ふぅーん」
「バレンタインだろ? 男がチョコもらう日だろ?」
ほんと何言ってんのお前、と言わんばかりの変な顔をして俺のことを見る周。
いや……
そりゃそうだけどさ、愛を贈り合うイベントじゃね? 恋人に何かしたいって思っちゃダメなんか?
「竜太君だって男でしょ?」
俺がそう言うと、周はハッとした顔をする。
……え?
今もしかして驚いた?
「まさか竜太君のこと女の子だと思ってたわけじゃないよね?」
笑いを堪えてそう聞いたら、さすがにムッとされてしまった。
「当たり前だろ! ……なんていうの? 男とか女とか考えた事なかったから、一瞬そういうの頭から抜けてた……」
はぁ……
そういうもんかな?
「とにかくだ、バレンタインライブの事は内緒だな」
「なるべくあいつらに会わないようにするわ俺……」
嘘の苦手な周はこういう時はすぐ逃げて誤魔化そうとする。
竜太君の誕生日のサプライズ計画の時もそうだ。バレるからってずっと竜太君を避けて過ごして、散々な目にあった。竜太君は理由もわからず避けられて、どんなに辛い思いをしたか……
竜太君もいい迷惑だよな。
「多分バレそうな気もしなくもないし、そんな竜太君を避けるような事はすんなよ。また誤解されて拗れるからな」
多分……
てか、絶対バレるよな。
まあバレなかったらラッキーって感じだな。
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