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練習

今日も康介がうちに来ている。 チョコ作りの練習だって。 僕に教えてもらうって張り切ってるけど…… 僕だって手作りチョコなんて作った事はない。 「僕はさ、チョコ作るなら圭さんに教えてもらうつもりでいたんだけど、なんで康介は僕に?」 誰のエプロンだか知らないけど、ウサギさんが胸に大きくプリントされた微妙に可愛い自前のエプロンを着けた康介に聞いてみる。 「俺だって圭さんに教わろうと思ったんだけどさ、兄貴に言ったらダメだ!って睨まれたんだよね。おまけに色々聞かれるしさ……だからさ、お願い。竜だけが頼りなんだよ」 初心者二人でやったところで、うまくいくとは思えないんだけど。 「しょうがないよね……僕も初めてだし、調べながら頑張ってみよっか」 康介とキッチンで二人で並び、タブレットで検索する。 「まずは! この美味そうなザッハトルテだ!」 「………… 」 なに? いきなりそれ? 難易度高いでしょ。 「康介? これはいくらなんでも無理でしょ…… 最初はチョコを溶かして固めるだけのにしとこうよ。ね?」 僕が言うと、少し不満そうにしながらも康介はコクンと頷いた。 康介が持ってきた板チョコを、溶かしやすくするために包丁で細かく刻む。 刻んでいると、康介は欠片をどんどん自分の口に運んでいった。 「ちょっと! 康介つまみ食いしちゃダメだよ」 チョコの付いた指を、つまみ食いしては自分のエプロンの腹で拭くもんだから、胸元のウサギさんの口もチョコだらけ…… 僕がやってもしょうがないので包丁をバトンタッチして、康介がチョコを刻むのを眺めていた。 やっぱりな…… 康介もなかなかの不器用君だ。 まな板の上からどんどんチョコが溢れてく。 それを眺めながら、僕はチョコを溶かすのに使うお湯を沸かしておいた。 これくらいでいいのかな? 康介は自分の指を切り落としそうになりながらもなんとかチョコを刻み終える。 「刻んだチョコをこのボールに入れて、湯煎しながら溶かすんだよ」 真剣な顔をして康介がチョコを混ぜていると、母さんが帰ってきた。 「あら? 康介君いらっしゃい」 チョコのボールから顔を上げ、少し焦ったように康介が挨拶をする。 「あ! おばさんお邪魔してます。あと、台所お借りしてますっ!」 興味津々な顔で母さんが覗き込んできた。 「あら? チョコ作ってるの?……あ! バレンタインの練習? 最近は男の子からもチョコあげるのね〜」 「そうです友チョコです! 友達にっ!」 康介ったらそんなに顔を赤くしてたら可笑しいよ。 「ふふっ、怪我だけは気をつけてね。私は向こうで休んでるから……康介君ごゆっくり」 母さんは楽しそうに笑い、奥の部屋へ移動した。 部屋から出て行く母さんの後ろ姿をジッと見つめてから、康介はそわそわと僕を見た。 「大丈夫かな? 俺がチョコ作ってんのおかしくなかったかな?」 「気にしすぎだって。大丈夫だよ。母さん、僕が周さんの事好きなのもちゃんとわかってるし、変な風には思わないと思うよ」 「は? マジか? ……そうなのか」 そう呟くと、またチョコを溶かす作業に戻っていった。 初めてのチョコ作り…… 型に流し入れて固めたチョコは溶かしてる最中に水が混ざってしまったせいか、分離したり固まらなかった所があったり、とっても残念な仕上がりで幕を閉じた。

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