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いざ買い物
周さんと仲直りしてから数日──
もっぱら康介と僕はバレンタインのチョコレートの話で盛り上がっていた。
今週末はいよいよバレンタインデー。
僕らのウキウキ加減は、まるで女の子だ……
今までは貰う側だったのがあげる側になったからドキドキ感が半端ねえ! って康介が言っている。
僕は今まで母さんからしかチョコを貰った事がないし、特別な日と思った事がないから、ちょっと康介の気持ちがわからないところもあるけど……でもやっぱり「好きです…」と言って改めて渡すのはドキドキするよね。
康介は毎日のようにチョコを溶かしては固める……の練習を繰り返してるみたいだけど、成功率は半々らしい。
全然ダメじゃん……
でも、本番で気合い入れてやるからもう練習はしないんだって。
ようはチョコ、飽きちゃったんだよね?
今日は康介に付き合ってもらって周さんにあげるチョコレートを買いに行く。
色々と調べて人気のお店に目星をつけ、今康介とそのお店に向かって歩いているところだ。
歩きながらふと康介が僕の方を見てるのに気がつき、「なに?」と聞いた。
「竜はさ、周さんとはどんなデートとかすんの?」
突然そんな事を聞かれて少し恥ずかしくなる。
「急になに? デート? あんまりデートらしいことしてないよ。周さんバイト多いし。二人で出かけたり、周さんちに行ったり僕の家だったり……」
康介はなんだか浮かない顔になる。
「俺さ、いつも修斗さんがあそこ行こう! とか、ここ行きたい! とか言ってきて、それに合わせてるんだけど……修斗さんに気を遣わせちゃってないかな? って思うんだよね。俺がたまにはリードしてあげないと、つまんない奴……とか思われないかなって心配になるんだ」
そんな事考えてるんだ。
「大丈夫でしょ、そんな事くらいでつまんない奴だなんて思わないよ」
そうかなぁ……と康介は首を傾げる。
「それにさ、修斗さん凄くわかりやすいじゃん。康介の事大好きって顔に出てるし。いつも仲よさそうで羨ましいよ」
僕がそう言うと、そんな事ないって赤くなって康介は首を振った。
目的の店は駅前のメイン通りにある。駅に近くなり、だいぶ辺りが賑やかになってきた。
「あれ? ……あそこにいんの、周さんじゃん?」
康介が駅の改札口辺りに立っている人物を指差した。
結構離れているけど、あの背の高さといい髪型といい、周さんに間違いない。凄く目立っていた。
でもあれ? 今日はバイトのはずだけど……
「周さんて目立つよね。あんなに離れてるのにすぐわかる。竜どうする? 周さんとこ行く?……あっ」
周さんが立っているところに女の人が近付いてきた。
え? 誰?
周さんの表情はここからはわからないけど、二人で立ち話をしている。
知り合いなのか、そうじゃないのか、ここから見る限り僕にはわからない。勿論雅さんでもない。
今日はバイトだから会えないって僕は周さんから聞いていた。
「……ごめん、僕帰る」
康介が驚いた顔をして、帰ろうと方向を変える僕を引き止めた。
「いや、なんで? チョコ買いに行こうよ。あんなのただの逆ナンとかだよ。気にすんなって……」
「………… 」
「周さんのこと好きだって言ってただろ? 好きだからすぐ不安になるんだよな? わかるよ。だからさ、とりあえずチョコ ちゃんと買いに行こうぜ。な?」
そう言って、康介は笑いながら僕の腕を掴んで道を進む。
……うん。
「ありがとう康介。そうする……」
少し苛々しながら、僕は康介と目的のチョコレート専門店へ歩いた。
そのお店はテレビや雑誌でも取り上げられていた有名店なので、かなりの客で賑わっていた。
そしてその客のほとんどが女の人。
康介に付き合ってもらって本当に良かった。僕一人だったら、尻込みして絶対に中に入れなかったと思う。
康介はこういうのは気にならないのか、どんどん進んであれやこれやとショーケースを覗き込んでいる。
「超美味そう! なんか食うの勿体無いくらい綺麗なのもあるよ。ほら見てみ?」
ちょっとはしゃぎ気味の康介に服の裾をツンツン引っ張られ、並んでショーケースを覗く。
「本当だね。美味しそう……僕自分のも買ってこうかな」
そう言ってキョロキョロと選んでいると店員に声を掛けられた。
「何かお探しですか?」
急に声をかけられ少しドキッとして口籠っていると、横から康介が顔を出す。
「お酒の入ってるやつありますか?」
僕のかわりに聞いてくれた。
「それなら、こちらへ…… 」
店員に案内され、僕らは奥のショーケースを覗いた。
「見て! 康介。結構種類あるんだね。悩む……」
康介も「ほんとだねぇ…」と呟きながらケースの中を覗いてる。
「しかもいい値段するね……」
まぁ予算内だけど、思っていたより高くて驚いた。
ひとつひとつ手作りで、材料も厳選されたなんたらかんたら……と店員が丁寧に説明をしてくれた。
僕は見た目の華やかなチョコレート三個を選び、箱に詰めてもらいラッピングをしてもらった。
わぁ…… とうとう買っちゃった。
周さん、どんな顔するかな。喜んでくれるかな。
バレンタインデー当日、楽しみだな。
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