383 / 432
視線
休み時間、トイレに行こうと廊下に出ると知らない人に声をかけられた。
「渡瀬君……ちょっといい?」
気の弱そうな人。
見たこと無いけど同じ一年生かな?
「何ですか?」
その人はオドオドしながら小さな声で話しかけてきた。
「……あ、ここだとアレなんで……ちょっとこっち 」
そう言って廊下を進んでいくから、とりあえず僕はついていった。
二年生のフロアに続く階段の脇まで来ると、その人はおもむろに小さな袋を差し出してきた。
?
「……なに?」
無言でずいっと差し出すもんだから、ちょっと後退りしてしまう。
「あの……これ、貰って下さい!」
胸元にその小袋をグシャっと押し付けられて、慌てた僕はその袋を手に持ってしまった。そしてその人はその袋を僕が手にしたのを見るなり、逃げるようにどこかへ走って行ってしまった。
えー? 何これ?
知らない人に変なもの貰っちゃった……
名前も知らないし、クラスもわからない。どうしよう。返せないじゃん。
あ! でもまずはトイレに行かないと。
僕は受け取ってしまった小袋をポケットにしまってトイレに向かった。
用を済ませて教室に戻る。
康介に話そうと思ったらチャイムが鳴り授業が始まってしまったので、放課後まで僕はこの袋の存在を忘れてしまった。
昼休み、周さんと修斗さん、康介と一緒に教室で過ごす。
今日は二年生の周さん達の教室。
なんだかいつもより視線を感じるのは気のせいかな?
僕はお弁当を食べ終え、廊下を見た。
……やっぱり、廊下の窓からこちらを覗いてる人が数人いる。
「周さん、なんか見られてるのって僕達かな?」
周さんのブレザーの袖を引っ張り、聞いてみた。
「んぁ?……お前ら何見てんだよ! 」
周さんはいきなり廊下に向かって大きな声を出すもんだからびっくりしてしまった。康介も驚いて食べていたメロンパンを落としそうになり、ムッとしながら周さんを睨む。
「あ……周さん、何も怒鳴らなくても…… 」
僕は慌てて、怖い顔をして向こうを睨んでる周さんの腕を掴んだ。
「ちょっと橘、悪いんだけど渡瀬君少し借りていい?」
廊下にいたひとりが教室に入ってくる。どうやら周さん達と同じクラスの人らしい。
「はぁ? お前なに? 竜太はモノじゃねぇよ? 借りるってなんだよ。貸せねえよ!」
知らない先輩と、周さんの剣幕が怖くて少し周さんの背中側にまわって様子を見ていた。
康介もその先輩と周さんを交互に見ている。
……修斗さんは我関せずで携帯を弄ってる。
「しょうがないか……わかった。渡瀬君、また後でね」
その先輩は、僕に優しい笑顔を向けそう言うとすぐに行ってしまった。
周さんは「また後で ってなんだよ!」っていつまでも怒っている。
「もう、周さん。いきなり喧嘩腰、怖いです。すぐに怒鳴るのダメですよ!」
僕は堪らず周さんに注意した。
あれじゃぁ、すぐ喧嘩になってもおかしくないじゃん。
「修斗さん、周さんっていつもあんななんですか?」
僕が聞くと、修斗さんは小首を傾げ「んん…」と呟く。
「周がああなのは竜太君が絡んでるからじゃん? いくら何でもあそこまで酷くはないよ」
そう言って笑った。
ともだちにシェアしよう!