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ありがとう
放課後、僕と康介はそそくさと帰り支度を始める。
ちょうど志音が教室に入ってきて、僕と康介が持っていた紙袋を見て揶揄った。
「モテる男は辛いね」
そう言う志音だって沢山もらったんじゃないのかな?
「志音は? いっぱい貰ってんじゃねぇの?」
康介が肘で志音を突く。
「ん? 俺は外では受け取らないの。毎年事務所に沢山届くから、もうそれでいっぱいいっぱい……」
そう言って手をヒラヒラさせて帰って行った。
「………… 」
「なんかすげぇな。俺もいっぱいいっぱいになるくらいモテモテになってみたいよ」
康介が志音の背中を見送りながら呟いた。
康介と一緒に並んで歩く。
康介も僕も、手には貰ったチョコが二つ。
やっぱりなんだか複雑だった……
康介と別れ、家に入る。
貰ったチョコをリビングにいた母さんを気にせずにテーブルに置くと、それを見た母さんは中を覗くなり驚きの声を上げた。
「あら! チョコレート? 竜太これ貰ったの? 二つも?」
なんだか嬉しそうな母さん。
「うん、学校で貰ったの。先輩から……」
「ん? 男の子から? ふぅん、今は男の子も女の子も関係ないのね。よかったわね」
……よかったのかな?
「これから出かけるんでしょ? 周君達のライブだっけ? 帰りは遅くなる? それとも帰らない?」
キッチンで何かやりながら母さんが聞いてくるから「うん、わからない。帰れないようなら連絡するね」とそう伝え、自分の部屋に向かった。
着替えを済ませ、荷物の確認。
チョコとプレゼント。
ふとハンガーに掛けたブレザーのポケットが気になり触ってみると、今朝渡された小さな紙袋がクシャクシャになって入っていた。
あ……
そういえばこれ、あの時はなんだかわからなくてどうしようって思ったけど、これもきっとチョコだよね? すっかり忘れていた。
ガサゴソと封を開けてみると、中から可愛らしくラッピングされたチョコレートが出てきた。
何やらカードも添えられてる。
『好きです。男なのにごめんなさい』
凄く綺麗な字で書かれていた。
「………… 」
やっぱり受け取るんじゃなかった……
凄くいたたまれない気持ちになる。
手作りのチョコレート。
この人はどんな思いでこれを作って、僕に渡してくれたんだろう。
僕は顔すら、ちゃんと見ていなかったというのに。
ごめんなさい……だなんて。
人を好きになるのに何で謝らないといけないの?
人を好きになるのは自由だ。
でも僕はその気持ちに応えてあげることができない。
僕の方こそごめんなさい──
これから楽しみなライブなのに、なんだか気分が落ち込んでいく。
ぼんやりとしていたら、康介が迎えに来た。
慌ててコートを着て玄関へ向かった。
「ごめんね、お待たせ……」
僕の顔を見るなり康介が眉間に皺を寄せた。
「どした? 浮かない顔してる 」
心配そうに僕の顔を覗き込む康介。
「ん……なんか気持ちが重いんだ」
「なんだそれ? 」
不思議そうな顔の康介に、僕はさっき感じた気持ちを話してみた。
「そか……竜はさ、何に対しても真面目に考えるからそう思うんだなきっと。そんなに気にすることねぇよ。自分のケジメのために告白する奴もいるし、相手だって竜を悩ませて困らせてやろうって思ってチョコ渡したわけじゃねえだろ?……竜は優しいな。くそ真面目で優しくて、可愛い。俺はそんな竜が大好きだぞ」
そう言って笑うと、僕の頭をワシワシと撫でてくれた。
「そいつが可哀想だからって、竜はそいつと付き合えるのか? 違うだろ?
竜が後ろめたい気持ちになるのはおかしいぞ。でもちゃんと返事はしてやろうな」
……学校であの人に会ったら、ちゃんと言おう。
僕には好きな人がいるから。
でも好きになってくれてありがとう……って。
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