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バレンタインライブ
いつものライブハウスに着くと、周さん達が言ってた通り今日は女の子の客が多くみえた。そしてみんな手に何かプレゼントらしき物を持っている。
「うへぇ、今日なんか香水臭い…… 」
中に入るなり康介が思わず漏らすと、近くにいた派手目な女の子に睨まれてしまった。
「なんか怖えな…… 」
僕の耳元で小さな声で康介が言った。
ライブが始まる前に、圭さんが客席まで走ってくる。
僕らに用があるみたいだけど、女の子の客に囲まれてしまって動けないでいたから、僕と康介は慌てて圭さんの方へ向かった。
「あ、ごめんね。あのね、二人とも控室にいて! もうじき始まっちゃうからさ…… 」
圭さんは僕らにそう言うと、まわりの女の子達に ちょっとごめんね、通して……などと言いながら、僕の腕を取り裏へ回った。
控室に行くと、周さん達もみんなそこにいる。
「やっぱり来たんだな……終わるまでここにいろよ」
周さんが僕に手招きしながらそう言った。
「なんで? ステージ見てちゃダメなんですか?」
康介も圭さんに聞く。だって何しにここにきたの? 僕らはライブを見にきたんだよ?
「いや、別に見ててもいいんだけどね、終わってからはここには来られないよ。人が凄くて……だからステージは見ないでここにいた方がいいって思うんだけど。どうする? 康介君」
しばらく修斗さんを見ながら康介は考え「ここで待ってます」と返事をした。
僕も後ろから抱きついている周さんに「ここにいろよ」と念を押され、しょうがないから頷いた。
ステージを見られないのは残念だけど、終わってから周さんと会えないのはもっと嫌だ……
「なんだかなぁ……」
みんながステージへと出て行った後、康介が呟き項垂れた。
「でもよ、本当女の子の客多かったよな。あれ、みんな誰かしらのファンなんだろ? チョコとかあげちゃうの?……なんか複雑」
「でも、今日は打ち上げもしないで終わってからはすぐ解散みたいだし」
僕らは誰もいない控室でお喋りをしながら愛しい人が戻るのを待った。
しばらくすると外が騒がしくなり、バタンとドアが開く。
汗だくな圭さんを筆頭に、みんながステージから戻ってきた。
D-ASCH のみんなと、もうひとバンド。
よく一緒にライブをしている少し歳上のお兄さん達。そう、初めてライブに行った時にギャイギャイうるさいなって思ったあのバンドだ。
「お疲れ!」
何人かでハイタッチをして、汗を拭き拭き着替え始める。
みんなが帰り支度を始め、荷物をまとめるとドアの前で立ち止まった。
「竜太君達はそこで待っててね」
振り向いた圭さんがそう言うと、みんなでドアの外に出て行く。しばらくの間、ドアの向こうはガヤガヤ キャーキャー騒がしかった。
「なんだろうね……」
「きっとさ、女の子達に囲まれてんだよ。なんか嫌だな。ま、見えないだけいいか」
康介が複雑な顔をしてそう言った。
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