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初めてのバレンタイン

バレンタインは男がチョコを貰う日だからと、俺は何にも考えていなかった。 修斗にバレンタインデーには竜太に何かすんのか? と聞かれた時も、なんで? って思ってたけど…… 「あのチョコ専門店で竜ちゃんがね、嬉しそうにチョコ選んでたわよ。あんたにバレンタインチョコあげるつもりなのねきっと。可愛いわね」 お袋にそう言われてちょっと考えてしまった。 俺にチョコ? まさかな…… でも万が一、竜太が俺にチョコを用意してんなら、俺だって竜太にあげないといけないんじゃないか? って焦ってしまった。 でもそんな事を考えてたら、チョコをあげたら竜太はどんな反応するかな?って思ってきて……正直わくわくしてきた。 関係ないと思っていたバレンタインデーが、凄く楽しみなイベントになった。 だってよ、初めて俺は誰かにあげたいって思ったんだ。今までホワイトデーすらお返しなんてした事がなかったのに。 ……どうしようかな? 竜太はスイーツ大好きだし、チョコもきっと色んなのを食べ慣れているはず。 どんなのをあげたら喜ぶんだ? 修斗に相談……いや、絶対ニヤニヤされて揶揄われる。 ダメだ…… どうしよう。 悩み始めて数日後、家に帰るとお袋が台所で何か作っていた。 「何してんだ?」 見ると大量のチョコを刻んでいる所だった。 「ん? 職場に配る義理チョコの準備。買うより安上がりなのよ。格安の割れチョコ大量購入してきた」 ……手作り? 「なあ、チョコ少し分けてよ。そんでもって俺にも作れそうなやつ教えろ」 「はぁ? 嫌よ! 自分で買いなさいよ」 ……ムカつく! どケチめ! 「いいよ、そんな安もんじゃなくてもっと高級なチョコ買うし! その方が竜太も喜ぶ…… 」 「なに? 竜ちゃんにチョコ作るの? 周が? ……いいじゃない! 竜ちゃん喜ぶわよ! 頑張んなさい」 お袋は急に親切に道具の使い方とかを色々と教えてくれた。 でも、今日は台所は使ってるからダメだと言って、カップケーキのレシピだけメモに書いて俺にくれた。 「あたしが使わないときにでも練習なさい」 そう言われ、俺は次の日、お袋のくれたレシピを見ながら一人で作ってみた。 なんだこれ、簡単じゃん。 あっという間に完成して、味見もしたけどなかなか美味かった。 完璧! レシピをもう一度眺めていると、「隠し味にブランデーを入れてもよい」と書いてあるのに気がついた。 そっか……なるほどな。 練習するまでもねえし、こんなに簡単ならもう楽勝!と思い、俺はラッピングする箱やらリボンやらを買いに行った。 バレンタイン当日の朝に俺はカップケーキを作る。 今度は隠し味にブランデーを入れた。不器用だからカッコよくリボンなんか結べないけど……ま、いいよな。 箱に入れて、準備万端にしておいて学校に行った。 学校では、竜太にチョコを渡したいって奴らが俺に許可をもらいに何度かやって来た。 なんなんだよ。 「なんでいちいち周に許可を取りに来るんだろうね。可笑しい。周はダメって言うに決まってんじゃん。勝手にあげに行けばいいのに……ま、みんな周が怖いから聞きに来るんだろうけど」 修斗はそう言って笑ってる。 鬱陶しい…… でもこの後のライブの後が楽しみで、そんな事はもうどうでもいい。 あの胸くそ悪いバレンタインライブを乗り越えたら、あとはずっと竜太と一緒に過ごすんだ。

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