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志音とお出かけ
今日は周さんはバイトの掛け持ちで忙しいからと言って、学校が終わったらさっさと帰ってしまった。
僕は康介と志音と教室で少し残ってお喋りしている。
こないだのバレンタインの話をすると不機嫌になる康介がどうしても気になって、志音と二人で揶揄っているところだ。
「んもー! いいの俺の事は! ほっといてよ……よかったね、おふたりさんはどうせラブラブだったんだろ? 」
康介は不機嫌になるものの、休み時間とかはいつも通り修斗さんと仲良くやっていたから、別に喧嘩をしたとかではないらしい。
実際そんな話をしていたら修斗さんが教室まで康介を迎えに来て二人で仲良く帰って行った。
「康介君のアレ、なんだったんだろうね? 喧嘩したわけじゃなさそうだし……康介君ってわかりやすいよね。絶対なにかやらかしたか、やられたかしたんだよ。気になるぅ……」
志音が楽しそうに話す。
「そういう志音だってバレンタインの話振られると微妙な顔するよね?」
少し揶揄うように言うと、志音は顔を赤らめ目を泳がせた。
「う……ん、俺は別に……ちょっと喧嘩っぽくなっちゃったんだけどね、ふふ……別に問題はないよ」
今度はニヤニヤして目をそらした。
なんだかんだ仲良くやってるんじゃん。よかった。
「僕もね、凄く楽しいバレンタインを過ごせたよ」
僕は聞かれる前に楽しかったことを報告した。でも本当は沢山惚気けて自慢したいけど、恥ずかしいから最低限のことしか話さなかった。
「全く竜太君は相変わらずだね」
そんな僕の気持ちが分かったのか志音に笑われてしまった。
「今日はお仕事ないの? 真っ直ぐ帰る?」
なんとなく一人で帰るのは寂しかったので志音に聞いてみると、休みだから一緒に帰ろうと言ってくれた。
学校を出て二人で並んで歩く。
「なんかこうして二人で歩くのって久しぶりだね」
「だね。あ! 竜太君今日これから予定ある?」
志音は学校の後は仕事が多く、友達と遊ぶ事があまりない。
……ていうか、殆ど無いんだろうな。
「俺ね、カラオケ行きたいの! 竜太君どう? 行かない? 付き合ってよ」
カラオケはあまり好きじゃないんだけど、楽しそうな笑顔でそう言われちゃうと、断りにくいよね。
「いいけど、僕歌うの苦手だよ……恥ずかしいからあまり歌わないけど、それでもいい?」
他の人が歌っているのを聞くのは好きだけど自分が歌うのは好きじゃない。一応そう伝えて志音に了解を貰ってから、二人でカラオケに行くことにした。
部屋に案内され、ソファに座ると早速メニューを開きドリンクを決める。
「別にさ、ずっと歌うわけじゃないし、お喋りしてたっていいんでしょ?……あ、俺ね、このポテト食べたい」
そう言って、志音は僕のオレンジジュースと自分の飲み物とポテトを注文してくれた。注文が終わると今度は「なに歌おっかな」と曲を選び始める。
志音はどんな歌を歌うんだろう?
「あ……やだな、今すごい期待して俺の事見てるでしょ? 俺は歌、うまくないからね。いいのは見てくれだけだよ」
「あはは、自分で言っちゃってるし。志音らしいね。でも、うん、わかってる。志音はかっこいいよ」
そしてすぐに志音が入れた一曲目が流れ始めた。
志音が入れた曲は意外にも洋楽……
イントロは何となく聞いたことのある曲だなってわかったけど、僕はそのアーティストも知らないし、そもそも邦楽だろうが洋楽だろうが、僕が知ってるものは数少ない。
それよりも、志音が流暢な英語でその曲を歌い上げる事に驚いてしまった。
凄く上手いんだけど……
思わず聞き惚れてしまうと、あっという間に曲が終わってしまった。
「あ……すごいね! 志音歌上手でびっくりした!」
慌てて拍手をしながら志音にそう言った。
少し照れくさそうに笑うと「竜太君は?」と聞いてくる。
このすぐ後に僕に歌えと?
凄い歌いにくいんですけど……
僕は康介から教えてもらった事のある、唯一知ってる曲を入力して、恥ずかしさに耐えながら何とかその一曲を歌いきった。
「竜太君、上手いよ、自信持ちなって。もっと歌お ?」
志音が褒めてくれて「お世辞でしょ」と言いながらもちょっとだけ嬉しかった。
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