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再会
それから僕らは数曲歌い、お喋りをして過ごした。
バレンタインの時の高坂先生の事を聞いてもいないのに志音が話し始めて、結局また惚気話を聞かされた。
でも志音が凄く嬉しそうで、僕まで幸せな気持ちになった。
本当によかったね、志音。
二時間ほどカラオケ店で過ごし、二人で店を出ようと廊下に出ると、女の子数人のグループに出くわした。
なんかわちゃわちゃとその場から動かないので、邪魔だなと思いながら志音とそこをすり抜けようとすると、誰かに腕を掴まれて思わずよろける。
志音が慌てて僕を支えてくれた。
「ねえ! 君ちょっと待って!」
僕の腕を掴んだまま、その子は僕に向かってベラベラと何かを話し始めた。
……あれ? どこかで見たことある子だな。
ぼんやりと記憶を辿りながらその子の顔を見ていると、他の女の子達がざわつき始めた。
みんなが志音の方を見て何かコソコソ言っていた。
凄く嫌な気分になり、早くその場を離れようと掴まれた腕を振り払おうとした瞬間に僕は思い出してしまった。正直言って思い出したくなかった。
この子、周さんの元カノだと言っていた子。
「……ねぇ、聞いてる? 君、名前なんて言ったっけ?」
君こそなんて名前だよ。忘れたよ。
「僕は竜太……です」
その場の勢いで名乗ってしまったけど、あの時の周さんの拒否反応を思い出し、僕はこの子に関わっちゃいけないって思い慌ててその場から離れようと体を避けた。それでもその子は僕の腕をぐっと掴んだまま、離してくれない。
「僕はもう帰るんで、いいかげん離してください!」
志音はキョトンとして僕らを見ていた。
数人の子が志音を指差しまだコソコソと話している。
「ねぇねぇ、あれ仁奈のCMの人じゃない? ソックリだよね……ほら……見て見て、やっぱ本人だよね?」
ますます嫌な感じ。早くこの場から離れたい。
以前一度だけ有名な女優さんと一緒にCMに出演した事がある志音は少し有名になっていたから、たまに握手を求められたりサインを求められたりするらしい。
志音は苦笑いしながら、ざわついてる子達に自分から話しかけた。
「あのさ、俺、違うよ? よく間違えられるけど……似てるみたいで。いい迷惑なんだよね」
志音が否定するも、話しかけた事によって他の子達も少し慣れ慣れしくなってくる。
「えー、でもでも超イケメン! 一緒に遊ぼうよ。ね?」
キャピキャピし始めたその子達に、僕の腕を掴んだままの子が怖い顔をして言い放った。
「ちょっとアンタたちうるさい! 竜太君と大事な話があるんだから、もう帰っていいよ!」
そう言った途端、嘘みたいにサァーっと女の子達は帰って行った。
「………… 」
「ねぇ竜太君、思い出した? あたし凪沙だよ。前に会ってるでしょ?」
そんなのもうとっくに思い出してるよ。
思い出したところで、関わりたくないことに変わりない。
「そっちの彼は志音君でしょ?……違うとか言っちゃって、可笑しい。どう見ても志音君じゃんね。やっぱり実物もいい男だね」
志音もちょっと困った顔になる。
「でもね、あたしが用があんのは竜太君。志音君はどうする? 別に帰っててもいいけど」
凪沙はそう言いながら、志音にヒラヒラと手を振った。
「………… 」
凪沙を志音にまで関わらせて何かあったら大変だ……
相手は女の子だけど、周さんのあの様子じゃ、心底嫌でああ言っているのか、彼女が危ない人物なのか……僕にはちょっと判断できない。
でも見た感じ小柄だしちょっと派手だけど普通の女の子だ。暴力的な雰囲気ではないから大丈夫だろう。
「志音、ごめんね。先に帰ってていいよ。なんか僕に用があるみたいだし……また明日ね」
僕は志音に先に帰ってもらうことにして、凪沙に付き合うことにした。
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