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喫茶店
志音が帰ると、凪沙は僕に笑いかけてきた。
「どうする? どこかでお茶しようか?」
そう言って楽しそうに聞いてくる。
「別にどこでもいいですよ……」
可愛い笑顔だと思うけど、やっぱり周さんの事を思うと油断しちゃいけないって思う。
凪沙と少し距離を取りながら歩こうとするけど、凪沙は僕にくっついて来るからどうにも歩きにくかった。
「ねぇ、悪いんだけど……僕、足を怪我していて少し歩きにくいんです。ちょっとでいいから離れてくれませんか?」
気を悪くしたかな?
でも本当の事だし……いいよね?
一応相手は女の子だし、失礼のないように僕は気をつけて話した。
「あ! ほんとだぁ。足どうしたの? 歩くのしんどい? ……ごめんね。急に付き合わせちゃって」
凪沙は本当に申し訳なさそうな顔をして僕に謝る。
「腕貸そうか? 大丈夫?」
……いやいや、一人で歩いた方が歩きやすいから。
「平気です。お気遣いありがとうございます」
僕がそう言うと、凪沙はクスクスと僕から顔をそらして笑い、軽く溜息を吐いた。
「竜太君っていつもそんな感じなの? 丁寧って言うかなんて言うか……もっと砕けて話してもいいよ? あたしそういうの気にしないし。敬語やめてお気楽にどうぞ」
僕の方を振り返り、笑顔で僕にそう言うと「どう?」って凪沙は首を傾げる。
「あ……僕はこれが普通なんです。凪沙さん僕より歳上ですし敬語になるのも自然な事なので……こちらこそすみません。気を遣わせてしまって」
これは警戒してるから、とかそういうんじゃなくて、僕にとっては本当にこれが普通なんだ。
歳上の人にはどうしても敬語になってしまうし、周さんと話す時もやっぱり敬語が抜ける事はない。
周さんに指摘された事もなかったから気にしなかったけど……
周さんも僕が周さんに敬語使うのやめてもらいたいって思ったことあるのかな?
ちょっと気になってしまった。
……今度聞いてみよう。
「竜太君? ここの喫茶店でもいい?」
少しぼんやりと考え事をしてしまって、お店に到着してるのに気が付かなかった。
「……あ、はい」
あ、この店、前に周さんと一緒に来たことのある喫茶店だ。
ちょっと古びた感じの、やたら沈むソファの喫茶店。でも、静かで落ち着いた雰囲気で居心地良かったんだよな。
そうそう……
「ここのプリンアラモード、凄く美味しいんですよ」
周さんに子どもみたいだって笑われながら頼んだプリンアラモード。
凄く美味しかったんだ。
「へぇ〜、もしかして竜太君、甘いもの好きなの? ……あたしも大好きなんだよね。でも気をつけないとすぐ太っちゃう」
ちょっと顔を赤くして凪沙が言うと、店員さんが水を持ってテーブルに来た。 すぐに凪沙は僕の言ったプリンアラモードとレモンティーを注文した。
「竜太君はどうする?」
店員さんと凪沙に注目され、慌てて僕はカフェオレを頼んだ。
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