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友達
目的の服屋へ着いたけど、凪沙はなかなかその店に入らない。
……?
「どうしたの? 入らないんですか?」
僕が立ち尽くしてる背中に声をかけると、振り向いた凪沙が笑顔で答えた。
「やっぱり今日はいいや……」
「………… 」
なんだよ、僕らここまで結構歩いたよ?
凪沙の事も気になるけど、もういいかな。疲れちゃった。
帰りたい。
「……じゃあ僕はこの辺でいいですか? そろそろ帰りますね」
そう言って引き返そうとしたら服の裾を引っ張られてしまった。
「ごめん、待って……」
俯いた凪沙が何かを言いたそうに口籠る。
「……あの、凪沙さん? 何か言いたいことあるんですよね? 僕、ちゃんと聞きますよ?」
焦れったくて思わずそう言ってしまった。これ以上無駄な時間をを過ごすのはごめんだ。
ジッと僕を見る凪沙の顔が少し不安そうになった。
「あ……ごめんね。ありがとう竜太君。あのさ、すごい厚かましいと思うんだけどさ……あたしと友達になってくれない?」
「え?」
意外過ぎてびっくりした。
この人の今までの言動から、わざわざ「友達になって」だなんて言わないで平気で友達ヅラしてくるような人なのかと思ったけど、違うんだ……
それでも、僕が返事に困って黙っていると凪沙は慌てたように首を振った。
「ごめんごめん、今の無し! おかしいよね、気にしないで……」
凪沙は両手を顔の前で振り「ほんと、何言ってんだろうね」と、ごにょごにょ言ってる。
「あ……いや、別にお話したりするのはいいんだけど僕男だし、今まで女の子の友達なんていた事なかったからよくわからないんです……謝らないでください」
思った事を素直に言ったら「竜太君、優しいね」と凪沙は笑ってそう言った。
結構時間も経っていて、辺りはもう暗くなってる。
「凪沙さんは、お家はこの辺なんですか? 暗くなってきたし、よかったら送ります?」
女の子のひとり歩きはよくないと思ってそう言うと、凪沙は少しだけ頬を赤らめ肩を竦めた。
「ありがとう。大丈夫だよ、近いし……それに兄貴達が迎えに来るから……」
なんとなく寂しげな笑顔を浮かべて、凪沙は手を振って帰って行った。
僕も帰ろうと来た道を引き返し、ひとり歩いていると携帯のメールの着信を伝える音が鳴る。歩きながら画面を見ると、さっき別れた凪沙からだった。
そういえばアドレスの交換したんだっけ……
『今日は付き合ってくれてありがとう。よかったらまたお茶でもしてね。
それと、あたしと会ったこと、あっくんには内緒にしてほしいの。お願いします』
凪沙からのメールにはそう書いてあった。
……周さんには内緒に。
正直、周さんに内緒事は嫌なんだけど、あんなに警戒している周さんに凪沙と会っていたなんて、正直言って言いにくい。
まぁ、僕からはまた会おうとも思わないし、凪沙の言う通り、内緒にしていてもいいよね?
『わかりました。今日はごちそうさまでした』
簡単にメールの返事を送り、僕は家に帰った。
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