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あっくん
あれから何日経ったんだろう──
僕は特に何もなく毎日を過ごしていた。
今日は康介も部活だし、周さんとも会ってない。
僕は一人で下校する事になり、いつもの道を歩いていた。
校門を出て、しばらく歩いて行くと最初の信号がある。赤信号で僕は立ち止まると、なんとなしに向こう側に目をやった。
あれ……?
視線の先に見たことのある人影。
向こう側の電柱に寄りかかるようにして佇む人。
ここからでも分かる。あの横顔は凪沙だ。
気付いた時には信号が青に変わり、僕の横にいた人達が渡り始める。少しの間僕は足を踏み出すことが出来ずに凪沙の様子を伺い見ていた。
凪沙は信号が変わっても渡りもせず、こちら側を見るわけでもなく、ただそこに佇んでいるだけ。
……もしかして誰かを待っているのかな?
そう思いながら、僕はやっと信号を渡り始めた。
凪沙に近づき、気付いているのに声をかけないのもおかしいよな……と思い、渡りきった所で凪沙に声をかけた。
「どうしたんですか? 凪沙さん」
凪沙は電柱にもたれて、本当にぼんやりとそこに立っているだけだった。僕が声をかけた事に驚いたのか、凪沙はビクッと体を強張らせ慌てたようにこちらを見た。
「あ……竜太君、今帰り?」
「はい、これから帰るところです」
また、凪沙は何か言いたげな顔をする。
「……なんですか? どうしたんですか?」
僕は凪沙に聞いてあげると、少し遠慮がちにニコッと笑った。
「ちょっとお茶しない? 奢るからさ……」
僕は暇だったけど、またこの前のように何処かお店に入って長くなってしまうのが嫌だった。だから早く切り上げられるよう、すぐそこにある公園のベンチでお話しようと提案した。
凪沙は僕の提案に快く承諾し、僕のために自動販売機でコーラを買って来てくれた。
……なんでコーラ?
僕、炭酸のものは飲みにくくて苦手なんだけどな。
ちょっと不満に思いながらもせっかく買ってくれたんだからと、一口飲んだ。
凪沙も僕の隣に座り、レモンティーの缶を開けコクリと飲む。
「………… 」
「………… 」
また沈黙。何なんだろう。
どうせ周さんの事だろうとは思うけど。
まだ好き。とか? 恋の相談?
色々と考えを巡らせていたら、黙っていた凪沙が口を開いた。
「ねぇ、竜太君……竜太君はあっくんと仲がいいの? 前に親しそうにしてたよね?」
「………… 」
ほらやっぱり……
凪沙の話したい事って、周さんの事だ。
嫌だな……そんな話、したくない。
僕は馴れ馴れしく周さんのことを「あっくん」と呼ばれるのも堪らなく嫌だった。
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