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航輝と海成
「あ……こんにちは。初めまして。あの…… 」
何を話していいのかわからず、とりあえず挨拶をする。
「竜太君、丁寧なんだね。初めまして。俺は航輝 、凪沙の兄だ。こないだ公園で目が合ったよね?」
部屋で待っていた方の凪沙のお兄さんは、笑顔で僕にそう名乗った。
「で、俺が海成 。同じく凪沙の兄ね。見てわかる通り双子なの」
見れば見るほどよく似てる。
はっきり言って見分けがつかない。
声までよく似てるし。
茶髪の短髪、二人とも鋭い眼をしてる。きっと睨んでなくても、そう思われて怖がられちゃうんだろうな……
周さんもそうだ。
周さん、ほんとは優しいのに、目つきが怖いから敬遠されてしまうことが多い。
ぼんやりとそんな事を考えてたら、名前を呼ばれて我にかえった。
「ちょっと竜太君聞いてる? 突っ立ってないでこっち座りな!」
ローテーブルのところをトントン叩いてる航輝さんに呼ばれた。
「失礼します…… 」
僕が座ると、横に海成さんも座った。それにしても、何で僕、こんなところについて来てしまったんだろう。話があるって別に外で話したっていいんじゃないかな。
「話ってのはさ、凪沙の事なんだけど。竜太君、凪沙になんかしたか? こないだっから凪沙のやつ元気ねえんだよ。それにさっきなんかは泣きそうになってた」
僕が何かしたわけじゃないけど……心当たりはあるから返事に困る。
「凪沙さん、元気ないんですか?」
話をしている航輝さんにそう聞くと、顔色が変わり強い口調になった。
「お前が元気なくすような何かを言ったんじゃねえのかよ? とぼけんじゃねえぞ!」
「あの……きっと僕が凪沙さんから頼まれた事を断ったからだと思います」
とぼけてなんかいないし。
何で僕が怒られなきゃいけないんだよ。
「あ? なんで断るんだよ、引き受けりゃいいじゃねーか。凪沙の頼みだぞ? 断んじゃねえよ!」
「……?」
凪沙の頼みだからって無理なものは無理でしょ。何でそんな風に言われなきゃなんないんだ。
さっきからちょっとムカつく。このお兄さん達、凄いわがまま!
「あの! そんな怖い顔で言われても、無理なものは無理なんです!……もしかして聞きたい事ってこの事ですか? 僕、もう、帰っていいですか?」
少しイラっとしてしまった。
妹が心配だからって、ここまでする? 初対面の人を部屋に連れ込んで……
おかしいでしょ。
「帰れるわけねえじゃん。凪沙は何をお願いしたんだ? そんなに無理な話なのかよ」
「………… 」
いくらお兄さんだからって、凪沙の気持ちを僕がバラすのはダメだと思い、教えるのを拒んだ。
「黙ってないで何か言ったらどうだ? あ?」
横に座る海成さんが、そう言いながら僕の顎をギュッと掴む。
「イダイっ! やめれくださいっ! はなひて!……もう!」
僕は慌てて海成さんの手を両手で掴み、自分の顎から引き離した。
びっくりした。凄い力……
ズキズキする顎と頬を摩りながら海成さんを睨み、僕は海成さんから少し離れた所に座り直した。
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