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別人
「マジかよ! またお前かよ! 」
僕のまわりから航輝と海成の気配が遠のく。
「周さん? ……周さんっ! 周さんっ!」
見えない…… 動けない……周さんの姿が見たい!
必死に手首や足を動かしてみるもビクともせず、僕にはどうにもならなかった。
でも確かに周さんの匂い。そこにいるのは周さんのはずだった。すぐ近くに周さんの気配があるのに、その声は全く聞こえなかった。
航輝と海成が何やら怒鳴りながら暴れているのは聞こえてくる。
周さんじゃないのかな……
いや、そんなはずはない。
「テメっ! ……おいっ! ……ぐっ……ゔぅっ… 」
ドスドスと何かがぶつかるような音が激しく聞こえる。航輝だか、海成だかわからないけど呻き声も聞こえてくる。
見えなくて、動けなくて、僕には周りでなにが行われているのか全くわからなかった。
突然腰の下のシーツが引っ張られ、僕の上に覆い被さる。そのまま僕はわけのわからないままシーツに包まれてしまった。
……何? やだ! 早く目隠し取ってよ。この手の拘束を早く解いて……
状況が全くわからず、僕はひたすら周さんを呼んだ。
航輝と海成が何やらギャーギャー喚いていて、ベッドにも振動が伝わる。それでも、最初は威勢がよかった二人の声がだんだんと苦しそうになってきた。
僕は怖くなってきて、シーツの中で小さく丸まる。もうやだ……早く周さんに会いたいよ。
しばらくそんな状態が続き、今度は聞きなれた声が耳に飛び込んでくる。
「竜!……竜!……どこだ?」
康介だ!
「康介! ここっ! 早く解いて!……ここ!」
ベッドが軋み、康介がここまで来てくれたのがわかり安心する。
「竜!……大丈夫か?」
康介が僕に被さったシーツを剥ぎ、手首と足のテープと目隠しを外してくれた。
慌てて衣服を整え周さんを探すと、修斗さんに後ろから羽交い締めにされながら、無言で暴れている周さんの姿が見えた。
足元を見ると、血塗れでグッタリと動かなくなっている航輝と、同じく気を失ってる海成が転がっている。
「周……やめろ……これ以上やったらほんとに死ぬぞ」
静かに修斗さんが周さんに言っている。
周さんを見ると、表情も無く只々冷たい目をして倒れ込んでいる航輝を無言で蹴りつけていた。
「………… 」
そんな周さんの姿を見て、僕の背中に何か冷たいものが走る。
あんなに怖い顔の周さん……見たことない。
今までもこういう事あったけど……その時も周さん怖い顔をしていたけど…
そこにいる周さんは別人だった。
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