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胸の中

「……周さん」 僕は周さんの目の前まで行き、顔を見る。 「 ………… 」 周さん、僕と目を合わせてくれない。 「周さん……周さん……ごめんなさい。大丈夫だから……周さん……お願い……僕のこと見て!」 僕はたまらず周さんの胸に抱きついた。ギュッと力を込めて周さんを抱きしめる。 「え……」 周さん……凄い震えてる。 「周さん! ごめんなさい……周さん…… 」 「……なんで謝る?」 ここに来て初めて聞く周さんの声。 とても低くて、怒っているような悲しそうな、そんな辛そうな声で僕に聞いた。 僕は周さんに内緒で凪沙と会っていたことに後ろめたさがあったから、そのせいでこんな事になってしまったから…… 周さんを悲しませてしまったから…… 「だって……だって、僕が!」 上を向くと、周さんが僕の顔を見ていた。 やっと僕の事……見てくれた。 「竜太は……悪くねぇだろ。謝んな……」 そう言って、僕の事を抱きしめてくれた。 修斗さんが僕の鞄を持ってきてくれた。 「大丈夫? 歩ける? ……少し休んでから出るか?」 康介も僕の事を心配してくれてる。 「………… 」 ……大丈夫。僕は大丈夫なんだ。僕なんかより……周さんが。 周さんに抱きしめられたまま、僕は周さんの胸の中で返事をした。 「大丈夫です。助けてくれて、ありがとうございました……本当にありがとう……」 周さんの体の震えが段々と小さくなる。 胸の鼓動も心地よい響きに戻っていった。 ……よかった。 周さん、落ち着いてきた。 「周さん大丈夫ですか?」 僕は小さく周さんに聞いてみる。 「行くぞ……」 周さんはそれには答えず小さく僕にそう言った。 僕は周さんに肩を抱かれるようにして玄関を出る。 出た所で、凪沙がしゃがみこんで泣いていた。 僕らが出てきたのに気がつくと慌てて立ち上がり、周さんの前に出て凪沙は頭を下げて泣き喚くように謝った。 そんな凪沙の姿を見るなり周さんは凪沙の首元を掴み、殴りそうな勢いで睨みつけるから、僕は慌ててそれを止めた。 「周さん! 違うよ! 凪沙さんは僕の事、助けてくれようとしたんだ! ……凪沙さんは悪くない! ……やめて! 女の子だよ!」 凪沙は悪くない…… だって僕の話を聞いてくれた、ちゃんと自分のした事に気付けたんだ… だから責めたくなかった。 周さんは凪沙から離れると僕の事を抱き直す。 僕は周さんを見て、凪沙を許してあげてとお願いした。 周さんは僕の言葉に目を見開いて驚いた顔をしたけど、凪沙に向かって話し出す。 「いくら竜太がこう言ったって、俺はお前らを許す事はどうやったって出来ねえ……俺の大事な竜太を傷付けたんだ! それでも竜太が許せって言うならしょうがない。そのかわり一生俺らの前に姿を見せんな。わかったな…… 」 泣き崩れる凪沙の横を、僕は周さんに引っ張られるようにして通り過ぎ、そのまま歩き続ける。 いつの間にか康介と修斗さんもいなくなっていて、僕と周さんだけになっていた。 周さんは相変わらず黙ったままで、僕を捕まえたまま歩き続ける。 どこに行くの……? そう思って顔を上げた先に見えたのはラブホテルだった。

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