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理由
帰りしな周さんに今から伺いますというメールを送る。
思った通り返信はなかった。
周さんの家に着き呼び鈴を押すと、バタバタと出てきて僕を迎えてくれたのは雅さんだった。
「あら! 竜ちゃんお久しぶり。どうしたの? 約束してたのかな? まぁ入って。周は昨日から部屋にこもりっきりよ。まったくもう……」
雅さんが僕を部屋へと招いてくれる。
「私これから仕事で出るから、ゆっくりしていって。で、周に明日から学校行くように言っといてよ。出席日数ヤバいんじゃないの? もう、最後の最後で勘弁してよね……」
そう言って雅さんは口紅をさっと塗るとあっという間に出かけてしまった。
「………… 」
僕は周さんの部屋のドアをそっと開ける。
「周さん? 僕です……入っていいですか?」
部屋の中を覗くと、カーテンが閉め切ってあり周さんはベッドの中。
……あれ? もしかして寝てるのかな?
そっと周さんの顔を見てみると、静かに寝息を立てて本当にスヤスヤと眠っていた。
綺麗な寝顔……
でも顔色が少し悪くも見えたから、ゆっくり眠っていてもらいたくて僕は周さんを起こさずぼんやりと寝顔を眺めていた。
……あ、動いた。
どのくらい経ったかな、僕が周さんの部屋に来てからだいぶ経ってやっと周さんがモゾモゾと動き出す。
「んんっ……? あれ? 竜太?」
ぐぐっと伸びをした周さんがベッドの横に座っている僕に気が付いた。
「周さん、おはようございます。勝手に来ちゃってすみません…… 」
チラッと僕の顔を見たけど、起き上がらずに顔を背け周さんは僕に背中を向けてしまう。
……ほら、やっぱり元気が無い。
周さんに背中を向けられ、少し寂しかった。
「周さん……何か悩み事? 僕は周さんの力にはなれませんか?」
僕は周さんの背中に額をつける。理由もわからず周さんが元気がないのは嫌だ。だってそれじゃあ力になりようがないじゃないか。
「周さん……修斗さんも心配してます。お前が落ち込んでどうすんだよって言ってましたよ。どうしたんですか? 心配なんです……ねえ僕に顔見せてください 」
すると急に振り返った周さんに僕はキツく抱きしめられた。
……びっくりした。
周さんの背中に顔をつけていたから見ていなくて、急な周さんの行動に驚いて心臓が飛び出そう。
「竜太……俺、竜太とは絶対離れたくない。俺……なんかダメだ……辛いよ…… 」
聞いたこともないくらいの か細い声で周さんがそう言った。
……なに? なんでそんな事言うの?
「周さん、僕はここにいますよ? 頼まれたって僕は周さんから離れませんよ? 何が辛いんですか? 何があったの?」
力強い腕の中からなんとか顔を出し、僕は周さんに聞いた。
「……圭さんがさ……卒業したらアメリカの親父さんのところに帰るんだと。バンドは解散……」
ボソボソとそう言う周さんの言葉の意味が最初僕にはわからなかった。
え……?
圭さんが?
「解散……?」
「いや、圭さんは解散しろって言うけど、俺らはやめねえよ……三人で続けるんだ。もし圭さんが戻ったら、また一緒にやりてぇしな」
解散もそうだけど、なんでこんな大事な事……
「なんで今頃? 卒業式なんてもうすぐじゃないですか?……やだ! 寂しいよ… 」
だって卒業式なんてもうすぐじゃん。突然そんなこと言われても信じたくない。陽介さんは? バンドのファンのみんなは? 色んなことが頭を巡り混乱しそう。
「あ……ごめんな竜太。俺らはクリスマス前には聞かされてたんだ。みんなで話し合って……俺、納得したんだけどよ……だんだん卒業式が近づいてきたら、なんか辛くなってきてさ。そうだよな、寂しいよな……」
周さんが優しい顔をして僕の頭を撫でる。
「……なんでさ、お互い思い合ってるのに別れなきゃなんねぇんだよ。それだけは俺、やっぱり納得できね……」
え? 別れる?
別れる……の意味がわからず、僕は顔を上げて周さんを見た。
それに気付いた周さんが話を続ける。
「圭さんと陽介さん、卒業したら……別れるんだって。遠距離恋愛すんのかと思ったらそうじゃない、綺麗さっぱり別れるんだと……意味がわかんねえよな。俺、陽介さんの気持ちを思うと……辛えよ。見てらんねえ……」
あぁ……それで周さん、自分の事のように考えてしまって元気がなかったんだ。
それにしても……
なんで別れるっていう選択をしたんだろう。
そんなの悲しい。
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