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寄り道
康介もいつもの調子に戻り、今日も修斗さんとじゃれ合っている。
「なんでだよ。つまんねぇじゃん。遊んでよ、康介ー」
「うるさい! ダメなものはダメなんです。修斗さん、いつもよりしつこい。今日はごめんなさいって言ってるでしょ!」
用事があり帰りたい康介に、修斗さんが絡んでる。
「あ! 竜太君、もう帰るの? ……ねぇねぇ聞いてよ、康介ったら俺が暇ちんしてんのに構ってくんねぇの。意地悪だと思わね?」
……修斗さん、康介と一緒にいるとなんだか子供みたい。
「修斗さん、僕、今日暇なんで……お茶でもして帰りませんか?」
康介に目配せをして僕は修斗さんにそう提案すると、パァッと笑顔になった修斗さんがはにかんだ。
「うん、行こうぜ竜太君! 康介なんて知〜らない 」
少し口を尖らせた康介が、小さく僕に向かって「サンキュ…」と呟いて帰って行った。
「修斗さん、鞄取ってきますのでちょっと待っててください」
僕は急いで教室へと戻ると、帰り支度をして下駄箱の所に向かう。
下駄箱の所に、数人と話し込んでる修斗さんがいた。
修斗さんは友人知人がとても多いって康介が言っていた。男女問わずに愛想も良く、よく構われてるのを見て康介はしょっ中焼きもちを妬いている。その点周さんは一匹狼タイプだから、僕はそういった心配はした事が無いかも…… 殆ど一人でいるか、修斗さんと一緒にいるかだもんな。
ほんの少しの間、その光景を眺めていると、修斗さんと目が合った。
修斗さんは僕に気がつくと、その人達に手を振りすぐに僕のところへ来てくれた。
「竜太君、行こっ! 」
楽しそうな修斗さんと、僕は二人で歩き出した。
「修斗さんはお友達が多いんですね。いつも誰かしらと一緒で楽しそう」
「ん? 多いかな?……でもそうだね、楽しいよ」
少し歩いたところにコーヒーショップがあるので、そこでお茶にすることにした。
「本当にお茶なのね 」
ケラケラと笑う修斗さん。
僕は豆乳ラテ、修斗さんはブレンドコーヒーを注文して席に着く。
「竜太君ってそんな可愛いの飲むんだ。前も紅茶飲んでたよね?」
「僕、苦いのダメなんです。コーヒー好きだけど、ミルクとお砂糖はしっかり入れないと飲めません…… 」
僕らは他愛ない話で盛り上がる。修斗さんは誰に対しても優しくて、話題も豊富で楽しませてくれる。話し下手な僕でも修斗さんにつられてたくさんお喋りをしてしまった。
「なんだかデートみたいだね」
そんな風に言われて恥ずかしくなってしまった。康介が聞いたら絶対怒られちゃう。
こんな風だから修斗さんは絶対モテるだろうし、康介がいつも心配してるのがよくわかった。
「ねえ! そういえばさ、康介の奴バイト始めたでしょ?」
突然言われてびっくりしてしまった。
ゴクンとラテを飲み込み、え?……と顔を上げると、修斗さんはにっこりと小首を傾げた。
「でしょ? 」
この間、誕生日の話になって僕が周さんの誕生日にしてあげた事や、僕の誕生日に周さんがしてくれた事を康介に話した。
そうしたら、康介も修斗さんの誕生日に好きな所へ連れて行ってあげてエスコートしたいって言い出して、次の日にはバイトを始めた。
もちろん修斗さんには内緒ね……
そう言ってたんだけどな。
……バレちゃってるし。
「なんで? 知ってるんですか?」
「だってさ、康介バレバレなんだもん。最近遊んでくんないからさ、バイトでも始めたの? なんて聞いたら、慌てふためいて否定すんの。……想像つくでしょ? 鼻の穴膨らませてさ、してません! なんて笑っちゃうよね」
……康介ったら。
鼻の穴膨らませて赤い顔して否定してる姿が目に浮かぶ。
思わず笑ってしまった。
「でもね、バレてないと思ってるみたいだから、知らないふりしてあげてるの」
あれ……?
知ってるなら、さっきだって康介が遊べない理由わかってたんじゃないの?
「ん? ……さっきのは知っててわざとああやってたの。だって困ってる康介も面白くて可愛いんだもん」
僕の思ってた事がわかったのか、楽しそうに修斗さんがそう答えた。
「でさ、康介はどんなとこでバイトしてるの? ……ちょっと心配なんだよね」
「あれ? 修斗さんもヤキモチですか?」
珍しいなって思ってそう聞くと、ちょこっと首を傾げながらうーんと唸る修斗さん。
「ヤキモチっていうか、心配? 康介って結構モテるんだよ、男にも女にも。本人無自覚でアホだからさ……まぁそこがまた可愛いんだけど。でもなんでも信用してホイホイついてっちゃいそうでしょ? だから心配。接客業とかは正直嫌だなぁ…… 」
あぁ……確かにそれは心配かも。
前科があるし。
「そういうのは大丈夫だと思いますよ。康介のバイト先、コンビニですもん」
僕が教えてあげると「それなら大丈夫かな?」と修斗さんは微笑んだ。
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