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スタジオ
コーヒーも飲み終わり、修斗さんは携帯の画面を眺めている。
何かメールをぽちぽちと打ちながら「この後スタジオあるんだけど竜太君も一緒に来る?」と聞いてきた。
「え? 僕も一緒に行ってもいいんですか?」
ここ数日、周さんとあまり会っていなかったからこのお誘いは凄く嬉しい。
「もちろんいいよ。康介だってたまに見にくるよ。おいでよ」
笑顔で言われ、僕はお言葉に甘えて修斗さんと一緒にスタジオ練習へお邪魔する事にした。
スタジオに入ると、既に圭さんと靖史さん、周さんが練習していた。
ギターから顔を上げた周さんが僕に気が付き、すぐに修斗さんを睨む。
「なんで修斗が竜太と一緒にいんだよ!」
……あ、怒らないで。
「ごめんね、竜太君とデートしてた」
「ちょっと! デートじゃないです! 周さんっ、違いますよ。ちょっと寄り道してただけです」
いつもの調子で修斗さんが冗談を言うから少し焦って訂正をした。こういう冗談、周さん通じないところがあるから。
ムスッとした周さんに手招きされ、僕は周さんの側へと進むと肩を抱き寄せられた。相変わらず怖い顔で周さんは修斗さんを睨んでいる。
「周、俺が暇してたから竜太君が付き合ってくれたんだよ。ちょっとお茶してきただけだって……そう睨むなよ」
「修斗さんがスタジオにおいでよって誘ってくれたんですよ。見学してもいいですか?」
そう言いながら、圭さんと靖史さんにも突然来てしまった事を詫びた。
「別にそんな事謝んなくていいよ、最後まで見ていきな。後から陽介も来ると思うし、終わったらみんなで飯でも食うか」
圭さんが嬉しそうにそう言ってくれたからホッとした。
でも、こうやって圭さんも一緒にみんなで過ごすのもあと僅かなんだと思うと、やっぱり寂しくてしょうがない──
少しだけスタジオ内にいたけど、邪魔をしちゃ悪いので僕は一人部屋を出た。
自動販売機でお茶を買い、すぐそこの休憩スペースのソファに座る。
康介は今日のバイトは何時までかな?
康介も来られればいいのに……
そう思ってメールだけ入れておいた。
ぼんやりとしていると肩をポンと叩かれ、顔を上げると陽介さんが笑顔で僕を見ていた。
「珍しいね、康介は来てないの?」
陽介さんはスタジオの中をドアの小窓越しに覗く。
「はい、僕だけです。あ、後でみんなで食事行くから一応メールはしておきました」
「竜太君は優しいね。康介なんか来なくてもいいのに」
そう言って陽介さんは笑った。
陽介さん、普段と全然変わらない。
圭さんの話を聞いてみたかったけど、なんて言ったらいいのかわからず僕は何も言えなかった。
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