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少しだけ…

シンとしてしまった空気に申し訳なくなり思わず俯いてしまうと、圭さんが優しく話し出した。 「ありがとな……竜太君。俺も寂しいよ。でも竜太君までションボリしないで。まだ俺はここにいるんだし……な?」 顔を上げると、にっこり僕を見る圭さんと目が合った。 圭さんの言う通りだ。まだこうやって目の前にいるのに、僕がこんな風になってしまったら圭さんだって困ってしまうよね。 「……ごめんなさい」 「だから! 謝るなって。ね? 竜太君笑ってよ……」 身を乗り出して、圭さんは僕の頭を撫でてくれた。 泣きそうになってしまうのを誤魔化すために、僕は笑顔を作ってトイレに逃げる。 ……楽しい空気、壊しちゃった。 トイレの個室に入り、深く深呼吸をする。 笑顔……笑顔…… 自分の感情だけで物を言ってしまって迷惑をかけてしまった。僕は空気が読めないバカだ…… 少しして、個室のドアをコンコンと誰かが叩く。すぐに小さな声で「竜太…」と呼ぶ声が聞こえた。 周さん…… 僕は慌てて個室から出ると、心配そうな顔の周さんに抱きしめられた。 「……竜太、泣いてた? 大丈夫?」 僕の頭を優しく撫でながら、周さんが心配してくれる。 あったかい…… 周さんの匂い、落ち着く。 「大丈夫です……ごめんなさい。僕、空気壊しちゃって。でも、やっぱり寂しくて…… 」 周さんの胸に顔を埋める。 周さんは黙って僕の背中を摩ってくれた。 「竜太は素直でやっぱ羨ましいよ。空気壊したなんて言うな、大丈夫だから。素直な竜太の言葉、圭さんも嬉しかったと思うし……あんまり遅いとみんな心配するから、そろそろ出るぞ。大丈夫?」 周さんは僕を抱きしめたまま優しく話す。 僕は頷き、周さんの胸から離れた。 周さんの顔を見たくて顔を上げると、すぐ目の前に周さんの顔があり驚く。 そのまま優しくキスをされた。 「俺もみんなも寂しいよ……でも圭さんは絶対戻ってくるから、少しだけお別れ。そう思おうな?」 周さんも寂しく笑顔を作り、僕らはみんなのいるテーブルへ戻った。 少しだけお別れ── そう、また会えるんだもん。 悲しい顔しちゃダメだよね。

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