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前日
卒業式前日──
今日は明日の本番に向けての予行練習の日だ。
周さんたち二年生が会場の設置をする。こういうのはサボりそうな周さんも修斗さんも、今日は真面目に早く登校していた。
一年と二年のフロアを繋ぐ階段の踊り場で僕は周さんと少しお喋り。
卒業式まであっという間だったなぁ……としみじみ話す周さん。
僕、今からもう泣きそうなんだけどどうしよう。
中学の時の卒業式を思い出す。
まわりでチラホラ泣いてる生徒を見ても僕は何とも思わなかった。
何も感じなかったんだ。
中学校生活の三年を終えて、ただ高校に進むだけの事……
何が悲しい?
何が寂しい?
別れを惜しむクラスメートを横目に、不思議にすら思っていた自分。
今思うとゾッとする。
人と関わることでこういった大事な感情を知ることが出来て本当によかったと思う。あまりにも自分が無感情な人間だったと今頃になって怖くなる。
でもこんな僕に呆れることなくずっと寄り添っていてくれた康介や、何よりもこんな僕を好きだと言って愛してくれる周さんに僕は感謝してもしきれない……
時間がきて、周さんは体育館へ向かった。
僕は周さんの後ろ姿を見送ってから、自分の教室へ戻った。
来年の今頃は、僕は周さんを見送ることになるんだよね。
僕はどんな顔をして周さんの卒業を見送るんだろう。
卒業後も会えるけど、やっぱり学校生活の中に周さんがいない……そう思うと寂しくてしょうがなかった。
ずっとこのままならいいのにな……
体育館の準備が済んだことを告げる放送の後、僕らは順に体育館へと向かう。
今日は志音も学校に来ていた。
「なんかあっという間だよね。俺なんか二学期からだから特にそう感じるわ……そうだ! こないだ圭さんが挨拶に来てびっくりしたんだけど。卒業したらアメリカ行くんだって? 寂しくなるなぁ…… 」
志音が僕と並んで歩きながらそう話す。
そっか。志音は最近知ったのか。
「あ……圭さんのあの部屋ってどうなるんだろう?」
ふと気になって僕が志音に聞くと、「空き部屋にしとくのもアレだから親戚に貸すんだって」と教えてくれた。
圭さん、戻ってきてもあそこの部屋にはもう帰ってこないのかな?
「卒業式の次の日、ライブあるけど志音は来られるの? 圭さん最後だし、予定なければ一緒に行こうよ」
僕は志音に聞いてみる。
「もちろん行くよ。俺ハロウィンの時しか行ったことないから……」
そうだった。
確かハロウィンの時来てたよね。
「仕事あるからそれが終わったら行くつもりだよ。絶対間に合うようにする」
笑顔で志音がそう言った。
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